永井荷風の代表作「濹東綺譚(ぼくとうきたん)」。東京の東地域をバカにしまくりがスゴい。 [本]

2019年4月。

このところワタクシ、日本の近代小説(明治~昭和初期)にはまってます。田山花袋「蒲団」を再読しウゲエ~ッと滅入ってみたり、泉鏡花「高野聖」のくどい文章にギャフンとなったり、島崎藤村「破戒」を読んで「暗っ・・・」とつぶやいたり、正宗白鳥の・・・いや、これ以上はやめましょう。

そういえば、高校時代、国語のテストで、島崎藤村(しまざき とうそん)が正解の設問に「藤村藤村(ふじむら とうそん)」と誤答したヤツがいたっけ。間違いとはいえ、藤村藤村、カッコいいじゃん。トーソン・トーソン、なんて、まるで、デンジャー・デンジャー、だぜえ!テッド・ポーリーも大喜びだあ・・・って、ヘヴィメタルのマニアック小ネタかよ!?

いや、今日はそんなことを書きたいのではなかった。

永井荷風センセイ(1879~1959)の小説「濹東綺譚(ぼくとうきたん)」についてです。

荷風センセイは晩年13年間、ワタクシが在住する千葉県市川市に居を構えてます。この地が登場する小説も書かれており、市川市民として親近感がわくのですな。

さて、「濹東綺譚」は昭和12年(1937年)、つまり戦前の作品。新聞連載で人気を博し、いまや永井荷風の代表作、いや日本近代小説の名作のひとつ、とさえ言われてます。今回、35年ぶりに再読したワタクシです。

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しかし!

この作品を読んだ方は、本作を「名作」だと思うんでしょうか?

たしかに、往時の東京の様子や、そこに生きる人たちが活写されてはいる。荷風センセイにしか書けない古典的かつ流麗な文章には日本文学の底力を感じます。

しかし、ですよ、このハナシって、50歳を過ぎた初老の小説家が玉ノ井(現在の墨田区東向島)で偶然知り合った20代の娼婦、お雪にゾッコンになる、要するに、エロ話、なんであります。美辞麗句を並べようと、エロはエロじゃん、と言いたい。

ワタクシ、娼婦と老人の刹那愛のハナシがいかん、とは思いません。問題は、エロならエロでバシッと決めてほしい、つうこと。「愛のコリーダ」路線は無理として、谷崎潤一郎の「卍(まんじ)」のノリは欲しい、つうことで

煮え切らなさ、中途半端さが、(新聞連載だから仕方ないとしても)いかんぞ!と思う次第。当然ながら現代人が期待する「失楽園」的な濡れ場シーンは皆無。検閲があった時代ゆえ、書かなかったんでしょうけど、そうした時代差をおもんばかっても、読後のモヤモヤ感はぬぐいがたい。これをして、名作と呼ぶもんかねえ~と、どこまでも納得できないワタクシ。

ちなみに、25年ほど前、新藤兼人監督が本作を映画化しました。津川雅彦主演、娼婦お雪は新人女優の墨田ユキという配役。ワタクシ、当時、この映画をみて、なるほどそうくるかあ、と思いましたね。映画ですのでエロシーンはそれなりしっかりあります(納得)。その点は別として、映画の骨子は、お雪の純愛にまつわる「悲哀」なんです。

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いっぽう小説「濹東綺譚」から読み取れるのは、娼婦の悲哀なんぞではなく、お雪が娼婦でありながら、そのことをクヨクヨするでなく、現実に順応してカラッと生きる「したたかさ、逞しさ」なんですね。

永井荷風の、別の代表作「つゆのあとさき」も然りです。主人公君江の、男運の悪さや悲運より、彼女のヴァイタリティや苦境にめげない強さが小説を光らせているわけです。この視線こそが永井ブンガクのツボ、と思う次第。

何を言いたいかというと、荷風センセイが本作を1930年代に書いたのは早すぎた、ということ。多様な価値観が許容される現代(戦後という意味)ならば、同じ素材で、さらに深い展開ができたのではないか・・・と。そうしたら、ワタクシが今感じているモヤモヤ感は、多少なりとも薄まったのでは。

いや待てよ、逆かもねえ。制約の多い時代だからこそ成立した小説だったのか・・・あれえ、自分の意見がブレブレだ。なんだか分からなくなったけど、ま、いいか(簡単に思考を放棄)。

最後にひとつ。

本作は、題名に「濹東」を冠しているだけあって、東京の、隅田川から東エリアが舞台です。いまだったらネットで炎上するぞ、つうくらいこの界隈をディスっているくだりがあるのです。主人公(小説家)は、その地域にいくとき、なんと変装するんですよね。フツウの服は目立つ(!)ので、地元に合わせた「みすぼらしい服装」に着替える、という。以下は抜粋。

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古ズボンに古下駄をはき、それに古手拭をさがしだして鉢巻の巻方も至極不意気(ぶいき)にすれば、南は砂町、北は千住から葛西(かさい)金町辺りまで行こうとも、道行く人から振り返って顔を見られる気遣いはない。(中略)安心して路地へでも、裏道へでも勝手に入り込むことができる。この不様(ぶざま)な身なりは・・・(後略)

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どうなのよ、これ。80年前に書かれた小説とはいえ、江東区、江戸川区、葛飾区の皆さま、ここまでボロクソに言われて、許しておけますか!どうよ、どうよ!

と思ったら、昔読んだ谷崎潤一郎の犯罪小説に、さらなる特定地域ディス記述があったのを思い出しました。

妻を殺そうと計画する男が「大森か蒲田に引っ越す」という記述。妻の体を弱らせるのが彼の狙いなのですが、なぜ引っ越すかというと、「その地域は水が悪い(=汚い、不衛生)」なので「病弱な人間には命取りになる」・・・みたいな、おいおい、住んでいる人もいるんだぞお!とツッコミ気分MAX。というわけで、今日のまとめは、

文豪だったら、何を書いてもいいんかあ!

以上です。チャオー。

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