ラルキブデッリによるベートーヴェン室内楽曲CD。マニアックな2枚にしびれる。 [クラシック音楽]

2021年8月1日。

コロナ感染拡大は第4波か第5波かよく分かりませんが、ワタクシは、大人しく自宅で、飼い猫そらを撫で、そして30年以上に亘り溜めに溜めた音楽CDを再聴する地味な毎日です。おっと、早朝散歩を忘れてはいけませんね。

さて、音楽CDではまっておるのがラルキブデッリによる室内楽曲であります・・・と言っても「なんのこっちゃ」の方が多いでしょう。ラルキブデッリ(L’archibudelli)とは、チェリストのアンナ―・ビルスマさん(2019年没)を中心とした弦楽四重奏団です。18世紀以前の古楽器で、作曲当時の演奏スタイルを用いるHIP(歴史的情報に基づく演奏解釈:Historically Informed Performance)の先駆け的な存在であります。

彼らはSONY傘下のVIVARTEレーベルに膨大な録音(CD)を残しております。レパートリーは、ハイドン、ボッケリーニ、モーツアルト、シューベルト、そしてベートーヴェン、といったところ。ガット弦をノンヴィヴラートで奏でるラルキブデッリの音色は、木綿のごとくザラリとした滋味あふれるもので、好みは分かれるかもしれませんね。

彼らのディスクがバンバン発売されたのは1990年代、いまから20年~30年前です。当時は「古楽器演奏」が本格的ブームになりつつあり、無思想になんでも聴いてた30代のワタクシ、ブームに乗っかってCD購入したものの、当時はピンときませんでした。古楽演奏だと、オワゾリール・レーベルのホグウッドさん率いるエンシェント管や、モザイク・カルテットのハイドンやシューベルトにはまっていて、ラルキブデッリはどうもイマイチねえ、てな半端な距離感でした。音の入りのアタックが強い、と感じたのかもしれません。「もうちょいマッタリしてほしい」と思ったのか。。。ま、今となっては分かりませんが。

それは良いとして、ここ1か月ほど、ラルキブデッリのCDを、まとめて集中的に再聴しているのです。驚いたことに耳とアタマが変容したのか、イマイチどころか、なんと素晴らしいのだ!と感動に浸っている次第。

なかでも、ツボにはまったのは、ベートーヴェンであります。

まずは「弦楽三重奏曲集 Op.9」1990年録音。第2番、第3番、第4番の3曲が収録されています。クラシック音楽好きの方でも「ベートーヴェンって、弦楽三重奏曲を作ってたの?」と思うかもしれません。圧倒的に有名なのは、音楽史の金字塔たる弦楽四重奏曲でしょうから。弦楽三重奏は、ベートーヴェンさんが10代に作曲した作品で、若書きゆえか評価は低く、録音も少ないのです。私が持っている録音はムター(Vn)、ジュランナ(Va)、ロストロポーヴィチ(Vc)による1988年録音(ドイツ・グラムフォン)で、フツウに入手できるCDは、これくらいじゃないか。ちなみにこのCDは、申し訳ないが演奏がイマイチです。

だが!ラルキブデッリの演奏は、なんと素晴らしいことでしょう。「のちに多くの名曲を生み出した、あのベートーヴェンさんが、10代の頃、こんな(彼らしからぬ)曲を書いていた」という、負のパースペクティブに囚われると、ハイドンまがいの二番煎じ作品に聞こえてしまうわけです。それは、演奏者にとっても、聴衆にとっても、危険をはらんだスタンスだと思う。

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映画でいえばスティーブン・スピルバーグ監督「激突」や、デビッド・リンチ監督「イレーザーヘッド」みたいなもので、これらを、のちの有名作につながる「初期の習作」と位置付けると、本質を見誤るわけですな。スピルバーグ監督が「ジョーズ」「ET」「シンドラーのリスト」を撮らなかったとしても「激突」には固有の訴求力があり、リンチ監督が「エレファントマン」「ブルー・ベルベット」「マルホランド・ドライブ」を撮らなくても、「イレーザーヘッド」には完結したエグイ魅力があるわけです。つまり、のちの作品群を含めた全体から、初期作を評価する、パースペクティブは諸刃の剣、ってことですね。

ベートーヴェンの弦楽三重奏曲に関して言えば、音楽学者が何を言うか知らんし、ベートーヴェンらしくなかろうと、若々しく美しい魅力的な楽曲であり、それを教えてくれたのがラルキブデッリ、ということです。おっと、話が迷走してきたので、次のCDにいきましょう。

同じくベートーヴェンの「ホルン六重奏曲」「クロイツエル・ソナタ」であります。

ホルン六重奏曲は、それこそ「え?ベートーヴェンにそんな曲、あったっけ?」と私もびっくり。しかし、このCDの目玉は後半の「クロイツエル・ソナタ」なので、そちらの話をしましょう。ラルキブデッリが演奏しているのは、有名なヴァイオリン・ソナタ第9番の、弦楽五重奏曲アレンジ版なのです。編曲したのはベートーヴェンさんではなく、謎の誰かさんだそう。ところが原曲もビックリ、オリジナルはむしろこっちじゃね?くらいの迫力とダイナミズムにあふれた名編曲なのです。こりゃあスゴイ!と驚いた次第。もちろん、このアレンジ版に命を吹き込んだラルキブデッリの功績は、言うまでもないでしょう。

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企画勝ちともいえますが、あっぱれ!と申し上げたい。

書き始めるとキリがないクラシック音楽ネタ、そろそろ終わりますが、最後に、もう1枚だけ、CDをご紹介します。ラルキブデッリの演奏ではありません。ベートーヴェン楽曲の編曲つながりで、思い出したのです。

ARTE NOVAレーベルから1997年頃にリリースされた、ヴァイオリンソナタ第5番「春」のクラリネット・ソナタへのアレンジ版と、さきほど出た「クロイツエル・ソナタ」のチェロ・ソナタへのアレンジ版が収録されています。これがもう、違和感ない、というレベルを超え、たいへん良い出来栄えなんですなあ~。

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ここで気づいたのですが、ベートーヴェンの原曲が確固たる構造と精神性をもっているからこそ、楽器をかえようと異なる編成にアレンジしようと、聴き手を納得させる仕上がりになる、つうことなんでしょう。

さあて、話が長くなったところで本日のクラシック音楽ハナシはお終い!では寝る前に「セックス・マシンガンズのベストアルバム」を聴くことにしましょうか、みかん・みかん・みかん!・・・って、突然そっちに行くのかよ!コラッ!

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