内田百閒著「第二阿房列車」「第三阿房列車」を読んで、新潟への無意味旅行を思い立った日。 [本]

2019年6月。

札幌に行くとほぼ必ず立ち寄る古本屋さんに、2週間前、北海道出張のさい顔を出しました。学生時代から伺っているので通い始めて38年!うはあ、どおりでオレも歳をとるわけだ。。。

店内で5分ほど本棚を眺め、お、と声が出たワタクシ。ロックオンした物件は、

内田百閒(うちだひゃっけん)先生の名著「阿房列車」シリーズ全3冊、新潮文庫版であります。

3冊で700円つう美味しい値段ですが、ワタクシ、一冊目の「第一阿房列車」はすでに保有しております。そこで古本屋の方に「1冊目は要らないので、2冊目と3冊目だけ売ってくれません?」とダメ元で伺ったところ、38年通った実績がモノをいったか、ご快諾いただき、それも2冊で450円つう安さ!さすがは札幌、ワタクシの出身地だけあって人情に溢れております(ひいきの引き倒し、ってやつだね)。

入手した2冊、「第二阿房列車」「第三阿房列車」をホテルで読み移動中に読み、一気呵成に読破。結果、ワタクシの脳内には無意味旅行への激しい欲求が芽生えたのであります。

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おっと悪い癖が出ました。話を先走りすぎですね。

まず内田百閒さんを簡単に説明せねばなりません。1889年生まれ、1971年に82歳で逝去された作家・随筆家であります。夏目漱石の弟子で、芥川龍之介に慕われた、明治・大正・昭和を生きぬいた気骨のオジサンであります。東京大学独文科を卒業し、陸軍士官学校教授、法政大学教授・・・と経歴もすごいが、口をへの字に曲げた、ヘンクツおやじを絵に描いたようなご面相もすごい。

有名作品として幻想的な短編種「冥途」や、映画「ツィゴイネルワイゼン」の原作「サラサーテの盤」などがあり、一種独特の不可解さ気味悪さが、ワタクシ、大好きなのであります。本ブログで感想も書かせていただきました(「冥途」は→記事ここ、「サラサーテの盤」は→記事ここ)。

で、今回の「阿房列車」シリーズであります。昭和20年代に書かれたもので名随筆家(いまでいう名エッセイスト)でもあった百閒さんの魅力満載の、愛すべき脱力紀行文なのです。なぜ、脱力か、というと、

この書は、百閒センセイが子分(?)のヒマラヤ山系(本名は平山三郎さん)を従え、国鉄(当時)の列車で、日本全国津々浦々を旅する記録なのですが、百閒センセイ、なんと、どの地にも、用事もなければ、目的もないのです。

つまり、無目的の旅、なのです。

新幹線のなかった昭和20年代(1950年代)ゆえ、東京~九州の移動には特急電車で30時間くらいかかります。それだけの時間を費やしたなら、旅先で「観光する」「温泉に入る」「名物を食べる」とか、なんかやることがあるでしょう?

しかし!しつこいようですが百閒センセイ、用事も目的もないので旅先(の宿)でヒマを持て余し、「しょうがない、寝るか」てなグダグダなノリなのです。強いて言えば楽しみは、移動中に呑む酒、宿で呑む酒くらいでしょうか。そもそも地方の名所、名物、名産品に興味ゼロの御仁であり、それら絶好のエッセイネタも仕入れず「阿房列車」なる旅エッセイを書きあげてしまう、その筆力が怖いですなあ。

要するに、百閒センセイは、いまでいう「乗り鉄」なんですナ。旅先に行くことが目的ではなく、列車に乗ること自体が目的であり、むしょうに楽しいんですねえ。ま、その気持ちも分からんでもない。分からんでもないが例えば「雪中新潟阿房列車」には、こんな記述があります。

=== 以下、抜粋 ===

今度新潟に行ってみようか知らと思い立ったのは、勿論(もちろん)用事などある筈はなく、新潟に格別の興味もないし、その他何の他意あるわけではないが、あっちのほうは雪が降って、積もっているというので、そうすると、どう云うことになっていると云うのか、それを一寸(ちょっと)見て見たいと思う。

=== 抜粋終わり ===

こらああっ!と、私はいま、新潟県民に代わって怒ったのであります。「(新潟に)用事などある筈はなく、新潟に格別の興味もないし・・・」って、そこまで言わなくていいだろうがあっ!いまの世なら、この記述で大炎上ですよ、百閒センセイ。

とにもかくにも、好きなものは好き、ってことで、百閒センセイは無目的な列車旅を楽しむ、ワタクシは、センセイが残したエッセイを楽しむ、と万事は丸く収まりましたね。

さて、ワタクシ、「阿房列車」を集中的に読んだせいで、百閒センセイに感化され(毒にあたった?)、いま無目的旅行への欲求が異常に高まっているのであります。出張で日本全国に出かけるワタクシですが、当然そこに「シゴト」という目的があり純粋な意味での旅ではない。これはいかん!

てなわけで、決意しました、無目的に新潟に行くぞ!と。

なぜ新潟かというと、百閒センセイも行ってるし、新潟は好きだし、酒が美味いし、と理由は以上ですが、あれ、「酒を呑む」という目的が顔を出してしまった。まあ、いいか。旅のきっかけを、内田百閒センセイから、吉田健一センセイに切り替えれば、「旅で呑むぞ~」と胸を張れるわ、バッチリじゃん。って、つじつま合わせて今日はお終いっ。チャオー。

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