指揮者、ピアニストのアンドレ・プレヴィンさんが今年2月に逝去。彼の名録音をじっくり聴きなおした日。 [クラシック音楽]

2019年5月1日。今日は、「令和」の初日なのですね。ふーーん。

まあ、その話題で盛り上がる方々(便乗して金儲けを企む商売人を含めて)は、どうか、この機を逃さず、楽しむなり、呑んだくれるなり、がめつく儲けるなりしてくださいな~。チャオー。

てなわけで、ワタクシは、ワタクシの興味のあること、について書きます。

アンドレ・プレヴィンさんが今年2月、89歳でお亡くなりました。

誰よ、その人?と思う方もいるでしょうね。この方、クラシック音楽ファンなら知らぬものがない(はずの)名指揮者であり、ピアニスト。ついでに言うと映画音楽の作曲家としても有名です。「マイ・フェア・レディー」をはじめ、アカデミー賞を4回受賞という金字塔を打ち立てております。専門違いではありますがダニエル・デイ=ルイスも真っ青、キャサリン・ヘプバーンともタイを張るつう(妙な比較だ)、恐るべき天才音楽家でございます。

さらに言えば、1950年代にはジャズ・ミュージシャンとして活躍し、アルバムも出してます。彼のジャズについては10年前の当ブログ記事(→ここクリック)をご覧くださいまし、はい。

かようにクロスオーバーな方ですが、プレヴィンさんといえば、やはり、偉大なるクラシック音楽家と認知されていると思います。彼の指揮による膨大な録音のうち、たとえばリヒャルト・シュトラウス作品は重要な位置を占めており、その透明で立体的な響きは目をみはる(耳が立つ?)ものです。大仰に構えるでなく、余計な緊迫感を醸すでなく、ゆとりすら感じさせる空気のなかで、(録音技術もあるでしょうけど)鮮明・明晰に楽器が鳴り響きます。弦楽器や木管楽器の歌わせ方などブルっと震えてしまう。ウィーン・フィルと組んだ録音の数々(後述)は、オーケストラの上手さも相まって同曲の超絶名盤と言えましょう。

あれ、つい前置きが長くなってしまった。

ワタクシ、プレヴィンさんへの哀悼の意をこめ、CD棚から彼のディスクを引っ張り出しました。いやあ出るわ出るわ。こんなにたくさんのプレヴィンさんCDを持っていた事実には自分でもちょっと驚いた次第。

4月30日の関東地方の天気は、幸いにも(?)終日ほぼ雨。オーディオ部屋で音楽三昧するには、うってつけ!てなわけで、プレヴィン・デイと位置づけ、聴きまくりましたぜ。ゼンブとはいきませんが、再聴したCDを、以下ご紹介します。

のっけから本丸攻めです。ワタクシが深く愛する楽曲であり、この曲に他の演奏は要らん!と言い切れる名盤がこれです。どどーん!

ブラームス、ピアノ三重奏曲 第1番 作品8。プレヴィンさんがピアノを弾き、ヴィクトリア・ムローヴァさんがヴァイオリンを、ハインリヒ・シフさんがチェロを弾いております。

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ブラームスの美メロが、じわーっと心の奥底から沸き上がってくるかのような、エモーショナルで自然な歌いまわしが素晴らしいのであります。この曲はピアノから始まりますが、プレヴィンさんが、ゆっくりと弾く最初の数小節で「すごい!」と唸ってしまう、他にそんな演奏はありませんよ。やがて、他メンバーが加わると、「ああ、なんと良い音楽なのだ」と至福の時にひたり、ブラームス先生へ感謝の念すらわいてきます。良い音楽を、良い音楽だ、と素直に思わせる、これこそが至高の演奏というものです。奏者3人の音楽のベクトルはピッタリ合っておりコンビネーションが抜群です。同じひとりの人間が呼吸するかのように自然に聴こえます。この盤に比べると、古今の他録音(有名なモノも含め)は、まるで機械打ち込みのごとく味気なく聞こえますね。

ところで、上写真のとおり、ワタクシ同CDを2種類保有しているのですが、何が違うかはお分かりですね。左はPhilips盤(初出時)で、右はDECCA盤です。07年にPhilipsレーベルがDECCA傘下に入ったため、マニアとしては両方持たねばと思った次第。内容は全く同じなので、いったい何のこだわりなんでしょう(自問自答)。

次です。前述した、プレヴィンさん指揮ウィーン・フィルによるリヒャルト・シュトラウスの管弦楽曲シリーズですね。

まず、TELARCレーベルから発売された「アルプス交響曲」(1989年録音)

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カラヤン指揮ベルリン・フィル盤(DG盤)という強大な壁がそびえるこの曲ですが、双璧をなすトップオケ、ウィーン・フィルの技巧が冴えわたり、壮大で圧倒的な音楽絵巻が展開するのであります。TELARCご自慢のクリア音質が最大限に活かされ、大編成オケでも音は明瞭。ワタクシ、「アルプス交響曲」といえば、本盤と、ブロムシュテットさん指揮サンフランシスコ交響楽団のCDをTOP1、TOP2に挙げたいですねえ。

次もリヒャルト・シュトラウス。ウィーン・フィルを指揮した2枚で、これは渋いですよーー。

シンフォニア・ドメスティカ、訳名「家庭交響曲」パレルゴン(=余禄の意、内容はピアノ協奏曲)。1995年録音のドイツ・グラムフォン盤。もうひとつが、メタモルフォーゼン(弦楽合奏曲)、訳名「変容」、1986年録音のPhilips盤です。

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強調したいのは「家庭交響曲」と「パレルゴン」の素晴らしさです。前者はタイトルどおり、作曲者がご自分の家庭(家族)を題材にした楽曲でして、終始、明るい雰囲気に包まれております。

そのなかでの微妙な機微、ふとしたうつろいをウィーン・フィルが泣かせ演奏するわけです。もちろんプレヴィンさんの指揮あってのこと。パレルゴンではピアノとオケのバランスがサイコーですよ。この2曲、あまり演奏機会がないマイナー楽曲扱いですが、もっともっと有名にならないかなあ・・・。

いっぽう、「メタモルフォーゼン」は、「弦楽独奏者のための練習曲」というサブタイトルがあるとおり、地味でいまいちパンチがないですが、この曲さえ録音するあたり、プレヴィンさんのシュトラウス作品へのこだわりが感じられます。

ところで、録音レーベルの件は不思議ですね。同じ指揮者、同じオーケストラ、同じ作曲家の作品でありながら、「アルプス」はTELARC、「家庭」はドイツグラムフォン、「メタモルフォーゼン」はPhilips、と三様に異なるのは、どうゆう力学が働いてのことか?まあ、いいか、考えても分からんし。

次です。個人的にそれほど食いつけないですが、プレヴィンさん初期の名盤と評価の高いロンドン交響楽団との、ラフマニノフ、交響曲第2番(1970年代録音)です。

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70分近い長尺曲ゆえ、慣習的に「繰り返し部分をカット」して演奏されていたのを、プレヴィンさんが、はじめてカットなしの「完全全曲版」で録音したつうパイオニア的物件。演奏も見事なものです。ちなみに私が食いつけない理由は、プレヴィンさんの偉業にケチをつけるようでナンですが、私はこの曲を「無駄に長い」と思ってるニンゲンで、むしろ「カットあり」バージョンを好むからです(嗚呼、時代に逆行だ。でも個人の好みだもん、負けないぞお)。ゆえに、プレヴィンさんの別録音=1966年の「カットあり」を支持しますが、残念ながら、そちらは演奏(録音)がイマイチなのよね・・・と、どうもうまくかみ合わない。

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次にいきましょう。プレヴィンさんの気質が楽曲にピッタリという好盤であります。

エルガー 交響曲第1番&第2番。オケはロイヤル・フィルとロンドン響。そして、ガーシュイン「ラプソディ―・イン・ブルー」であります。英語圏の作曲家の楽曲は、プレヴィンさんに合う、という気がする。

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エルガーについては素晴らしいと思うモノの割愛させていただき、ガーシュインについて書きます。プレヴィンさんは指揮だけでなく、ピアノもご自分で弾いております。ジャズ・ピアニストとして活躍していただけあって、これはツボにはまる演奏ですぞ~。明るく陽気にスチャラカしちゃいますね~。ちなみに、「ラプソディ―・・・」はプレヴィンさん以外に名録音はありましょうが、併録されている「ピアノ協奏曲へ調」は録音が少ないこともあって、絶対に買い、です。曲調は「ラプソディ―」よりもシリアスで、私、こーゆーのが好きなんだ。

いよいよ最後のCDであります。

1974年録音の、プロコフィエフ ピアノ協奏曲全集(2枚組)であります。

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ここでのプレヴィンさんは指揮のみ(オケはロンドン響)で、ソリストはアシュケナージさんです。ワタクシ、この全集を買った理由はたったひとつ「ピアノ協奏曲1番を聴くため」でした。思うに、有名な3番、4番、5番に比べ、「1番」は不当に低評価されており、当時(30年前)、CDはほとんど無かったわけです。1番を愛するワタクシ、そのために2枚組を買うのもしゃくにさわる、と思ったモノの背に腹は代えられず本全集を買った次第。

ただし、そのおかげで1番以外の4曲の素晴らしさにも目覚めたわけで、これぞ瓢箪から駒。結果的に良い買い物でした・・・あれ、何の話をしているんだろう、オレ。

そうそう、プレヴィンさんですね。彼の指揮は、エラソーな誰かさんのように、前面へしゃしゃり出ることもなく、基本、ピアニスト(アシュケナージさん)のサポートに徹しています。しかし曲後半、ピアノとオケが丁々発止でやりとりする箇所では、ガンガン行ってくれて胸のすく爽快感を味わえますね。弦楽パートの合奏箇所の透明感は、他のCDと同じように素晴らしいです。惜しむらくは、1970年代のアナログ録音とはいえ、DECCAにしてはちょいとオケの音が濁っていること。21世紀になってからぜひ再録して欲しかったなあ。

さて、余談です。このCDのジャケットの右上(レーベルロゴ)をご覧ください。

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クラシック音楽のオールド・ファンの方、懐かしいでしょう!

LONDON、ですよ!イギリスDECCAと、アメリカDECCA、が両方存在した1990年代以前は、イギリス側製作を明示するため、DECCA、ではなく、LONDON、のロゴを入れてましたものね~。古いCDを引っ張り出すと、懐かしいテーマに出会えます。

前出のラフマニノフのCDにある、LP時代にEMIが使っていた「ANGEL」なんて泣かせますな~って、何の話だよ?脇道に逸れちゃって失礼。

以上、2019年4月30日。プレヴィンさんの名録音を堪能した1日でありました。今回紹介しなかったメンデスゾーンなども良い録音ですが、またの機会といたしましょう。

どうです、GWは高速道路で渋滞に巻き込まれるより、自宅でユルッと、音楽を聴いて過ごすに限りますな・・・まあ、そこには人それぞれの事情があるか。本日は以上です。ちゃんちゃんちゃん。

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