ルゴネスの短編小説 「火の雨」。唐突で不条理な世界の終わりとは・・・  [本]

2020年4月30日(木)。

新型ウイルスによる外出自粛で難儀な点といえば、読む本が無くなることです。本屋や図書館へ行く行為は「不要不急」だろうと控えてしまうわけで、そもそも、図書館は、すでに1か月以上も休館しておりますしね・・・。

てなわけで本日。

自宅2階の荷物部屋で開かずの段ボール箱(GWに廃棄予定だった)から、古びた数冊の本を発掘しました。20年も前に読んだ小説なら内容を忘れていて、新鮮に再読できるだろう・・・と思いきや、当時のワタクシ、今とは違って記憶力が良かったのか、ストーリーやオチをしっかり覚えている始末。。。さすがにアイザック・アシモフ著「黒後家蜘蛛の会」は第5巻ともなると、あまりにトホホな内容ゆえか、まったくオチ(犯人 and/or トリック)を覚えておりませなんだ・・・。

さて、現在、全世界で問題となっているウイルス禍を思わせる、重たい短編小説を再読しました。正確に言うと、ウイルスではなく、別要因による世界の末路が描かれております。

ラテン・アメリカ怪談集(河出文庫、1990年)に収録の「火の雨」です。

作者はレオポルド・ルゴネス(1874~1936)というアルゼンチンの詩人・作家。南米の文筆家といえば、ガルシア・マルケスと、オクタビオ・パスしか思い浮かばないワタクシ、ルゴネスさんのお名前は本作品で知るのみ、であります。

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この小説。ページ数はたったの15頁ですが、そこに描かれるのは、あまりに理不尽な世界の終わりです。理由も分からず対策も打てぬまま、人類は、世界は、滅んでいきます。淡々とした筆致ながら、実際に現場を見たかのような終末絵図に暗たんたる気持ちになります。

もったいつけてもしょうがないですね。小説のなかで、いったい何が起きたのか?

タイトルどおり、火の雨が降るんですね。空襲や爆弾ではなく、平和なすばらしい天気の日に、なんの前触れもなく真っ赤に焼けた銅のつぶが、空から降ってくるんです。

最初は空を注視しないと気づかないくらい少ないが、やがて数を増し、燃える銅のつぶは家屋の屋根に穴をあけ、体に当たった人間は火傷を負う・・・しかし、それが止んで、明るい空がふたたび広がると、ゲンキンなもので人々はホッと安堵し、すっかり平和が戻ったような気になります。

そしてその翌日・・・。今度は途切れることなく、大量の燃える銅の雨が、町に降り注ぐのです。そのくだりを以下、抜粋。

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町は身の毛もよだつような光景を呈した。家を焼け出された人々は怯えて通りや野原に逃げ、そこで無惨にも焼かれていった。悶え苦しみ、絶叫し、泣き叫び、様々な断末魔の声を上げた。人間の声ほど凄いものはない。建物が崩壊し、いろいろな什器(じゅうき)が燃え上がったが、なによりも、大勢の人間が焼け焦げて、この天変地異に地獄の悪臭の責め苦が付け加えられた。(田尻陽一訳)

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小説の主人公は、地下のワイン蔵に避難しますが、圧倒的な火の雨の前に、もはや助かる見込みはないことを悟り服毒自殺を決意する・・・というシーンで物語は終わります。絶望的なラスト・・・どうするのよ。

それにしても、なんという不条理でしょう!突然、空から降ってきた銅のつぶ、火の雨が、平和な日常を一変させ、たった数日で世界を消し去る・・・神の裁きか、自然現象か?小説に分析めいた記述は何もなく、無力な人々の姿があるばかり。いやあ、理屈を超えたストレートな怖さで、ブルッと震えまちゃいました。

こういうご時世ゆえ、ついつい猛威を振るうコロナウイルスを連想するワタクシ。現実は、この小説のような悲惨な結末にならないと信じてはいますが・・・と、話が暗くなったところで今日はお終いっ。

すいません、書き忘れました。「火の雨」の作者ルゴネスさんは、1936年、服毒自殺したそうです。小説の主人公は、達観して死を選びますが、ルゴネスさんはどうだったのでしょう・・・。

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