太田忠司さん著「奇談蒐集家」「レストア」に、小説を読む楽しさを再認識した日。 [本]

2019年5月。

毎月20冊の本を図書館から借りて読むのですが、今月は珍しく(?)どの本も大当たりでした。幸せな1か月でしたねえ。博覧強記のビブリオフィリア、荒俣宏御大は「本は借りては読んではいけない。自腹で買うからこそ真剣に読むものだ」とおっしゃいますけど、私だって税金を払っているわけで、公共施設は有効活用せねばね。。。

で、今日紹介する本は、借りた20冊のうちの2冊。久しぶりに「小説を読む楽しさ」を素直に実感させてくれました。

1959年生まれの推理作家、太田忠司(おおた ただし)さんの「奇談蒐集家(きだんしゅうしゅうか)」と「レストア」であります。小難しい表現をひねくる純文学系小説とは大違いで、太田さんの作品は良い意味で読みやすく、かつ、ぐいぐい読み手に頁をめくらせる物語の推進力が素晴らしいのであります。

まずは、読後に「やられた!」と唸った連作ミステリー「奇談蒐集家」であります。

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自分のコトバで内容をまとめるのがおっくうなワタクシ、手抜きでamazonから紹介文をコピペさせていただきます。失礼。

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求む奇談、高額報酬進呈(ただし審査あり)。新聞の募集広告を目にして酒場に訪れる老若男女が、奇談蒐集家を名乗る恵美酒(えびす)と助手の氷坂(ひさか)に怪奇に満ちた体験談を披露する。シャンソン歌手がパリで出会った、ひとの運命を予見できる本物の魔術師。少女の死体と入れ替わりに姿を消した魔人。数々の奇談に喜ぶ恵美酒だが、氷坂によって謎は見事なまでに解き明かされる! 安楽椅子探偵の推理が冴える連作短編集。

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ミステリー好きとは到底いえないワタクシですが、本作はよくできているなあ、と感心した次第。奇談の数々に読み手が納得できる(=トリックを見抜けない)からこそ、探偵役の氷坂による理路整然とした謎解きシーンが光るわけです。ボーッと生きてきたワタクシは、恥ずかしながら、ひとつとして見抜くことが出来ませんでした。つまり氷坂に完敗であります。ハハーッ。

しかしこの作品のココロ憎い点は、連作の最後の一編に大きなオチがあること。名探偵役の氷坂が、いくら腑に落ちる理屈を述べたところで、それは後だしジャンケンであって、真相かどうかは分からない。あくまで「ひとつの推理」に過ぎないわけです。そのことは江戸川乱歩センセイの名作「陰獣」を読まずとも当然でしょう。そんな読者の声に応えるかのように、連作最後の一編はそれまでとテイストがガラッと異なります。結果、見事な大団円をつくっているんですねえ。いやあ気持ち良いくらい、やられたぜえ!

ちなみに安楽椅子探偵ミステリといえば、ワタクシ、あまりに古典的ながら名作「隅の老人」シリーズを思い出します。しかし「奇談蒐集家」のテイストに近いのは、アイザック・アシモフ著「黒後家蜘蛛の会」シリーズでしょうかね。某クラブの会合でゲストたちが披露する謎めいたハナシに、会員たちがあれこれと勝手な推理をしますが、最後に、執事が明快に謎を解き明かして会員たちをギャフンと言わせる。惜しむらくは、「黒後家蜘蛛」シリーズはあまりに続きすぎて(3巻以上)、あとになるほど物語にキレが無くなり、惰性感が漂っていること。「奇談蒐集家」のようにバシッと最後を決めてくれたら・・・と故アシモフさんに失礼を言ってはいけませんな。

さてさて、太田忠司さんの著作で、紹介したいもう一冊は、これ。

レストア、オルゴール修復師・雪永鋼(はがね)の事件簿(カルテ)」です。

レストア01.jpg
こちらも連作ミステリですが「奇談蒐集家」とは趣が異なります。複数エピソードをからめた長編小説とも言えます。推理作家は、主人公やシチュエーション設定に苦労されると思いますが、本作の主人公=探偵役の雪永鋼は凄腕のオルゴール修復師(レストア)ながら、「うつ病」を抱えています。クリニックから処方される薬が切れると、生きていけないほどに切迫しています。精神に問題を抱えた主人公は小説や映画によく登場しますが、社会活動に支障を生じるほどではありません。というか主人公には探偵として「活躍」してもらわねばならない以上、人と会うこともできない人物では、物語が成り立ちません。著者の太田忠司さんは、そこを逆手にとり、雪永が望まない人間模様に巻き込まれるコラテラル展開を操っていくわけです。

そこに、アンティーク・オルゴールにまつわるアイテムがウンチク的にフレーバーされ、飼い犬ステラが良い味を出し、さらに最初の事件(?)で関わった女性とのロマンスも加わります。またぞろamazonからの紹介文をコピペします。

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鋼は、心の痛みを抱えながら、愛犬・ステラとともにひっそりとオルゴールを修復する日々を送っていた―ある女性と出会うまでは。彼女・飯村睦月が持ち込んだオルゴールからは、彼女の父親が聴いていたのとはまったく違う曲が流れるというのだが…。持ち主の想いが込められたオルゴールとともに持ち込まれる奇妙な“謎”。そして鋼を苦しめる“過去”には一体なにが?鋼と睦月を待つ運命は―。アンティークオルゴールの音色のように、哀しくて優しい物語。

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いずれにしても読み進むうち切ない気持ちになり、主人公雪永鋼と、彼を慕う女性睦月には、なんとか幸せになって欲しい!頑張れ、鋼君!と応援したくなること必至であります。この作品、ミステリーをからめた恋愛小説なのですなあ。なんとロマンチックであろうか。

おっと、すっかり話が長くなありました。調子に乗って、小説のネタバレをしないううちに今日はお終いにしましょう!チャオー!

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