内田百閒の短編集「冥途・旅順入城式」にゾーッとしてしまう日。 [本]

2019年4月。

春の陽気のなか、気色悪いネタでナンですが、内田百閒(うちだ ひゃっけん、1889~1971)さんの不気味な短編集「冥途・旅順入城式」(岩波文庫)について書きます。

冥途01.jpg
本の話の前に、ワタクシの体験談をチョット書きます。

世間にはいろんな人間がいるもので、温厚なワタクシをして怒りでブルッと震わせる不快な傲慢人間に、絶対数は少ないですが遭遇します。見ず知らずの相手なら良しとして、運悪く仕事上で付き合いがあったり、同じ職場の場合は困りもんです。なるべく関わらないように・・・と消極的対策を打つものの「行動は動機を強化する」という心理学の金言どおり、かえって憤りが募ったりしますなあ。

で、ここからが不気味と思うデキゴトであります。

相手に対しワタクシの不快感がマックスまで達して、フト、「こんなヤツあ、この世の中から消えちまえ」と思うと、恐ろしいことに、対象人物がほどなく病気で死んだり、大怪我をして私の前から消えるのです。うひゃーてなもんです。最初は単なる偶然と思ったけど、同じことが何度か繰り返されて、ああ、これはヤバいやつだ、と感じます。そりゃそうでしょう、消えちまえ、と思った相手が、実際に消えるなんて、まるで「デス・ノート」か「奥様は魔女」ですよ(古いなあ)。

とはいえワタクシも現代人。陰陽師でもなく、呪いなど信じてませんので、以下の説明をつけました。

・ 私が忌み嫌うX氏は、多くの人たちから同様に嫌われていたのであろう。

・ その結果、X氏は世間(組織)から孤立し、精神的ストレスがたまっている。

・ そのストレスが、X氏の精神と肉体に影響し病になったのである。

・・・と無理やり小理屈ですが、ほかに理由(因果関係)が思いつかない。それにしても、この嫌な感じは、何なんでしょう。分かっていただけますかね。現時点で入院中の、あのヒト、はぜひ死なずに社会復帰してください、お願いしますよ(切実)。

ということで本題。内田百閒の短編集「冥途・旅順入城式」です。

百閒さんの師である夏目漱石先生の「夢十夜」に倣ったとおぼしき、悪夢的ショートストーリーが、たっぷり48編も収録されております。気味の悪さとシュールさでは、「夢十夜」より上を行くとも言えましょう。どの話も、起承転結の「結」の部分がなく(ある意味「起」もない)、その何か起きそうで起きないまま、説明も解決もなく、唐突に終わる宙ぶらりん感覚が気色悪さを倍増させるのであります。おお怖い怖い。

ワタクシのお気に入りは「影」という作品。一読し、前出の体験(?)を連想しブルブルっと震えたのであります。たった12頁の話なので完全ネタバレですけど、こんな話です。

主人公は、無職で蓄えが底をつき、友人知人に、職の斡旋や借金の依頼をして回っています。最初に訪問したのは甲野という男の家。しかし甲野は不在。玄関にあらわれた息子とおぼしき三歳児が、主人公を見て逃げ出し、真っ暗な部屋へ逃げ込むと、ものすごい悲鳴を上げる(うーん、このシーンだけで怖かった)。2日後、主人公は、別の知人、乙川さんの家を訪れ借金を申し込みます。乙川さんから、甲野の子が突然高熱を出して死んだ、と聞かされゾッとします。さらに数日後、主人公は友人の丙田に会って、職の斡旋を懇願します。丙田からは、乙川さんが入院して危篤になっていること、甲野の息子が、死ぬまで「怖いよ怖いよ」と言っていたと聞かされます。

丙田が、冗談のように「君に見込まれると変なことが起きる」「俺には取りつかないでくれ」と話すのを、不快な気分で聴く主人公。そしてフト・・・

・・・とまあ、こんな話です。収録されている他作品に比べ、幻想味や荒唐無稽さは少なく、物語がしっかりあるのですが、それゆえに気味悪さがリアルでして、読後、背中の寒い感じがたまらんのであります。

主人公は死神か?などという、ありきたりの解決は不要で、ただ、嫌な感じをめでるのがオトナというもんでしょう。で、この物語の主人公を踏まえると、「あいつなんて消えちまえ!」と思うと、現実になる(こともある)私は、殺し屋ですかね。うーん、今日は何を言いたかったのか分からなくなった。

せいぜいオレは自分のことを嫌わないように気を付けようっと・・・って、そんなオチかよ。チャオー。

nice!(1)  コメント(2) 
共通テーマ:日記・雑感

nice! 1

コメント 2

しのぴぃ

興味深い小説のご紹介、ありがとうございます。
「嫌な感じをめでるのがオトナ」。いい表現ですね。
美辞麗句に踊らされる前に、嫌な感じの具体例を刻んでおこうと改めて思いました。
by しのぴぃ (2019-04-15 06:21) 

門前トラビス

To しのぴぃ様、コメントありがとうございます。
ぜひとも、いや~な感じをめでて下さいまし。ちなみに、収録作品のなかには、すんごいアクティヴなものもあります。動物が大暴れするとか・・・百閒さん、振れ幅がすごいです・・・。
by 門前トラビス (2019-04-19 03:47) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。