偉大なるマーラー指揮者、ギルバート・キャプランさんが逝去。 [クラシック音楽]

2016年早々、クラシック音楽ファン(のごく一部)に、衝撃的な訃報が飛び込んだのであります。

1月1日、指揮者のギルバート・キャプランさん(1941年生まれ)が、お亡くなりになったとのこと。

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え・・・と、一瞬、言葉を失いました。

どんな有名指揮者の訃報より、私にとって生々しいショックであります。

ギルバート・キャプランって誰?と、訝しく思う方には、以前のブログ記事を読んでいただくのが手っ取り早い(記事は→ここ)ですが、乱暴にくくってしまうと、

マーラー交響曲2番「復活」だけを指揮する世界的指揮者でマーラー研究家

となりましょう。

ギルバート・キャプランさんは、もともとはアメリカの実業家。26歳で経済誌を創刊し、一流へと成長させた凄腕経営者です。音楽演奏には縁のない人生でした。(ちなみに、億万長者でございます)

そんなキャプランさん。あるときレストランで耳にしたマーラーの交響曲2番「復活」に感激し、いつか、この曲を指揮したい!と夢を抱いたわけです。ふつう、それは夢で終わるか、せいぜい金持ちの余興(+周囲の苦笑い)で幕を閉じますが、この方の執念はスゴかった。「やるなら徹底的にやる!」という、新入社員に聞かせたいモットーの持ち主のようで、

70分を超すあの巨大楽曲のスコアを徹底的に勉強して暗譜し、プロ指揮者を家庭教師に雇って指揮を練習、世界中の「復活」コンサートを聴きまくり、ついに1982年、自費でプロ・オーケストラを雇って、自らの指揮による、一晩限りの演奏会を開催するんですね。

この、「最初で最後のつもりのコンサート」が聴衆に大うけして、翌年、逆にオーケストラ側から指揮者として招かれます。会場はカーネギー・ホール!これまた絶賛を浴びて、以降、キャプランさんは、「マーラーの『復活』、1曲のみを振る指揮者」として大活躍するんです。

1988年には、メジャー・オーケストラであるロンドン交響楽団を指揮したCDを発売。私は、28年前、銀座山野楽器で、このCDを購入、はじめてキャプランさんのことを知った次第です。

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やがてキャプランさんは「復活」の指揮・録音だけではなく、マーラーの自筆譜校訂、シンポジウム出席など、研究者としても活躍の場を広げ、もはや彼の音楽を「アマチュアの趣味」と言う人は皆無となっていました。

そりゃあそうですよ。世界各国(日本も含め)の、30以上のオーケストラで「復活」を振り(それもオーケストラ側からのオファーで)、世界一と称されるウィーン・フィルとさえ録音をしちゃうんですから。つい数年前、規模を小さくしたオーケストラ用の編曲版で3度目の「復活」CDを出されていました。なんというモチベーション!

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ビジネスの世界で大成功し、その後、指揮者、研究者としても成功を収めた驚異の人物。ちなみに彼は経済誌の会社を7000万ドル(80億円!)で売却しており、潤沢な資産が、当初の音楽活動を支えたわけです。いやはや、アメリカの金持ちってスゴイもんですなあ。

キャプランさんのドリーム人生はさておき、本題の「音楽」、であります。

ワタクシ、キャプランさんの実演は拝見したことがありません。以前、イギリス出張の日程が、もうちょっとズレていたら、バーミンガムでフィルハーモニア管弦楽団を振るお姿を拝見できたのですが・・・痛恨。

で、録音に限って申し上げます。訃報を聞き、ロンドン交響楽団とのCD(1987年録音)、ウィーンフィルとのCD(2002年録音)を聴き直しました。

感動という点では前者(ロンドン交響楽団との共演)が圧倒的。謙虚で実直。いかにも「この曲が大好き」という(私と同じ)思いが前面にバンバン出ております。私が「この箇所は、こう演奏してほしい!」と思う箇所を、本当に、そう演奏してくれる夢のようなプレーなのです。

たとえば、第一楽章。オケの全強奏(そのあとパウゼとなる)の直前、びみょうにリタルダント(減速)する、そのニュアンスがたまらない。そこには、プロフェッショナル指揮者の手慣れたルーチン感は皆無で、音楽愛にねざした真摯な必然が満ち満ちているんですね。

逆説的ですが、多くの有名指揮者の「復活」はBGMとして聴けますが、キャプランさんの「復活」だけは襟を正して聴きたい、と思う。いや、本当にそう思う。この曲のCDを、23セットも保有しているワタクシが言うのだから間違いございません(ちょっと自慢?)。

たとえば、こうゆうこと。巨額の開発費を投入した専業メーカの超高価なスピーカーより、音楽好きの木工職人さんが10年かけて手作りしたスピーカーのほうが、よっぽど心を打つ「音楽」を響かせる。似た不思議があるんですよ、ギルバート・キャプランさんのマーラー演奏には。。

ロンドン響とのCDのブックレットをみて、やっぱりそうかあ、と思いましたね。オルガンと鐘はオケは別収録してダビングしているのですが、そのオルガンは、マーラーがニューヨークフィルとの演奏会(1911年)で使ったものだそう。こだわっているなあ~。(下写真はブックレットより転載。オルガンのレコーディング風景)

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すっかり話が長くなってしまいました。

キャプランさんのステージを拝見できなかったのは残念ですが、これからも愛聴盤として、キャプランさんの「復活」を聴きます。ご冥福をお祈りいたします。

蛇足ですが、昨年(2015年)に発売された、めちゃ感動のマーラー「復活」CDがあります。川瀬賢太郎さん指揮、神奈川フィルによるもの。それについてのブログ記事も、おいおい書こうと思います。


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