東京駅前のビル工事現場で起きた死傷事故。「外部チェックが無かった」と非難するのは自由だけど、根本はそこじゃないと思うんだよね。 [雑感]

2024年2月。

2月11日の朝日新聞デジタルに、東京駅前のビル工事現場での事故に関する記事が出ていました。昨年9月、作業員の方5名が死傷した痛ましい事故です。ワタクシ、工場や発電所の現場シゴトが長かったので、こうゆう事案には注目しちゃうんです。

報じている内容は「事故原因は(施工会社である)大林組の、鉄骨重量の計算ミスというもの。以下、朝日新聞デジタル 2月11日付け記事より抜粋します(図も)。

======================

JR東京駅近くのビル建設現場で昨年9月、鉄骨が落下して作業員5人が死傷した事故で、施工した大林組が「鉄骨の重さの計算に誤りがあった」と警視庁に伝えたことが捜査関係者への取材で分かった。鉄骨を下から支える「支保工(しほこう)」という仮設の構造物に、想定以上の荷重がかかって崩落した可能性がある。警視庁は業務上過失致死容疑で調べている。

(中略)事故は昨年9月19日午前9時15分ごろ、東京都中央区八重洲1丁目の7階建てビル建設現場の7階付近で起きた。
tekko01.jpg
(中略)捜査関係者によると、大林組は警視庁に、鉄骨5本などにより支保工にかかる重さについて「計算ミスがあった」と説明したという。支保工の構造は支える鉄骨などの重さによって決まるが、その前提から誤っていた可能性があることになる。支保工は埼玉県内の下請け会社が造ったという。

この計算は大林組の社員が担当し、ミスは社内で改善されなかった。支保工など仮設構造物の強度などの計算について、外部機関のチェックはなかったといい、計算ミスが見過ごされたまま工事が進んだとみられる。

======= 記事の抜粋終わり ========

さて、記事の内容が正しいとすれば、人命にかかわる重大な計算を、担当社員が間違ったまんま、ブツ(支保工)が出来上がり、現場で作業が行われ、結果、不幸な人災が発生したわけですな。

で、これ言うと身もふたもないけど、程度の差こそあれ、現場では、こうした間違い、実はけっこうあるんです。命にかかわるレベルは少ないが、設計ミスによる構造物の強度不足、接合の不一致など日常茶飯事と言ってよい。私がかかわった某現場では、電気配線の接続の40%(!)が間違っていました。もう笑うしかなかったもんね。

設備組立用のボルトとナット(大量)が出荷し忘れで現場に届かず、背に腹はかえられぬと、ホームセンターを駆け回ったことが何度あっただろう。届いたケーブルの太さ(導体サイズ)が間違っていて、県内の業者に電話をかけまくり、ケーブルをかき集めたこともありました。

私は、だから間違ってもいい、と言ってるわけではありません。工事規模が大きいほど、多くの人間が関わるゆえに「間違いも起きやすい」と言いたいのです。大切なのは、そうした間違いをどうやって減らすか、です。

朝日新聞の記者さんは「ミスは社内で改善されなかった」と指摘し、くわえて「外部機関のチェックはなかった」と書いてます。さすがは朝日新聞さんだ、正論ですなあ。正論なんだけどね、「外部機関のチェック」はちょいと理想主義に傾きすぎでしょう。

どんな工事でも時間と費用が限られています。どこまでを外部機関でチェックするかの線引きにもよりますが、もし実施したなら、時間がかかって工期が延びる。費用も増えて工事費が高くなる。

施工会社が、施主(客)に対して「わが社は外部機関のチェックを入れているので安全面はバッチリです。ただし価格は他社の2割増しで、工期も2割長いですわ」と言ったらどうなる?アッパレ、アッパレ、君の会社に発注だ!安全第一だもんね、はっはっは・・・となるはずもなく、見積り段階で失注、ハイ、サヨウナラでしょう。

くどいようですが、私はだから事故は仕方ない、と言ってるわけではありません。自由経済のドグマにおいては、外野が思うほど簡単に理想主義は成立しない、という現実を申しています。

じゃあどうすれば事故を防げるのか?複数の目による間違いチェックは有効ですが、それはあくまで防波堤であって本質ではないと思う。アンタの意見こそ理想論じゃん、と笑われるかもしれませんが、

根本の策は、個々人のスキルアップしかありません。ここでいうスキルとは、重量計算が出来るとか、現場業務をさばける、という手先のハナシだけでなく、自分のやったこと、まわりのやってることに適切なツッコミを入れられる能力のことです。インシデント(トラブルの芽)を摘み取れる能力です。「あれ?これって、なんかおかしくね?」と引っ掛かれるかどうか、そこが勝負です。

エラソーに上から目線で言いますね。すべての企業ではないでしょうが、多くの企業の実務者はインシデントを摘み取るどころか、シゴトは雑の極み、間違いだらけなのを強く感じます。むしろ重大事故を誘発している、とさえ言えます。彼らは、目先シゴトをやっつけるのに汲々とし、立ち止まるとか振り返ることが出来ないんです。上司も同じようにバタバタしているので、間違った計算・指示・手配がスルーされ、最後は現場で大惨事という結末に至るのであります、ハイ。

話は変わりますが、私がやってるバイトのひとつに、メーカやエンジニアリング会社の技術書類チェックがあります。外部チェックのお役目ですね。驚くことに、誰でも知ってる有名企業が作った(というフレコミの)ご立派な報告書に、誤字・脱字、主語と述語の不一致、論理の破綻、計算間違い、グラフの貼り間違えなどのミスがわんさか見つかるのです。嗚呼、技術立国ニッポンはどこへ消えた?日本人の矜持はどうなった?ほら、こんな調子だから、トラブルや事故なんて永遠に無くならんわけですよ。

お母さんは泣いてるぞ~、武器を捨てて出てきなさい~、って相手は立てこもり犯かっ!

話がズブズブになったところで、改めて企業の皆さんにお願いしたい。DXがどうのAIがどうの、とさえずる前に、国語と算数の勉強をしっかりやってくださ~い。そして、資料や報告書を作ったら、3日後に冷静な目で見直してくださ~い。信じられないようなミスが見つかるもんですぜ。

おっと、あまりにも完璧な書類にされちゃうと、私のクイブチが減るので、ほどほど、でお願いしますね、ほどほどで。「機器」を「危機」と打ち間違える程度は許す。しかし「配電盤」を「拝殿板」はありえんから!・・・って、誤字ネタを言い出すとキリがないので、本日はこのへんで。チャオー。

nice!(1)  コメント(2) 
共通テーマ:日記・雑感

nice! 1

コメント 2

LargeKzOh

 "nice" をつけましたけど・・・門前トラビスさんの定義される "スキル" を保つ人は、今も昔も気象ではなく希少価値的な存在だと老生は想います。
 まともな人材、むしろ "人財" とも言うべき人はいつの世でも少数派に過ぎない・・・老生の経験的判定に過ぎませんが。
by LargeKzOh (2024-02-12 12:25) 

門前トラビス

LargeKzOh様、コメントありがとうございます。
インシデントの摘み取り、などとカッコええ言い方しちゃいましたが、言い換えると「自分を客観視することで、見落としや間違いに気づく」という「姿勢」だと考えております。
勉強して身につくというよりは、躾(しつけ)や動機付けによって培われるスキルだと思います。
したがって、躾や動機付けがキチンと為される環境さえあれば、だれもが「自分を客観視できる人」になれるわけで、希少価値的な人材でもないですね。
ただ、その環境づくりさえ、ままならない(というか、軽視している)のが日本企業なので、いったい末はどうなることか・・・ま、日本崩壊までは私は生きてないので、なんの問題ないのですが。合掌。。。
by 門前トラビス (2024-02-13 12:38) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。