映画「プラド美術館 驚異のコレクション」を拝見。困ったもんだ・・・とプチがっかりな気分。 [映画]

2020年9月。先月のハナシになっちゃいますが、札幌のシアターキノで拝見した映画について書きます。

「プラド美術館 驚異のコレクション」

であります。分類的にはドキュメンタリー映画になるんでしょうなあ。

プラド01.jpg
スペイン、マドリッドのプラド美術館。所蔵美術品は、数字は今回知ったのだけど展示品1700点、収蔵品7000点で、どれもが歴史的価値の高い一級品つうモンスター・ミュージアムです。なにせプラド・コレクションは400年間に亘って、王侯貴族たちが豊富な財力と卓越した審美眼で集めた至宝であり、19世紀以降の絵を並べて悦にいってる日本の美術館とはスケールそのものが違いますわ、とた、だただ脱帽しちゃうわけです。

プラド所蔵の「快楽の園」などボッス(ボッシュ)の作品の実物を観たい!と、「昔」は思っておったワタクシ。しかし、すいません、20年前にウィーンでボッス作品を観てから、プラド愛がちょい冷めた感じ。ちなみに、ワタクシが、目下、実物を観たいと熱望する唯一の絵画作品は16世紀にマティアス・グリューネヴァルトが描いたキリスト磔刑図、いわゆる「イーゼンハイム祭壇画」であります(プラドではなく、フランスの美術館にある)・・・って、あれれ、話が脇道に逸れましたね。

映画「プラド美術館 驚異のコレクション」に話を戻しましょう。

前述のごとく、8700点もの所蔵品を誇るプラド美術館のドキュメントにしては、この映画、尺は2時間弱であり、畢竟、取り上げられる画家は、有名どころに絞られるわけです。やっぱりあの画家だよねえ、と良くも悪くもの予定調和な着地点。たとえばポスターにもなっている「侍女たち」を描いたベラスケス。王侯貴族の肖像画と、晩年のホラーな「黒い絵」の両方が圧巻の天才ゴヤ。スペイン宮廷画家として活躍したこの二人は、プラドにとって飛車角、絶対の存在ですなあ。

さらには、ルーベンス。エル・グレコ。ティツアーノ。そして前述のボッス等々。もちろん別の画家も紹介されますが、扱いは添え物。ただし(日本での人気はイマイチ?の)スルバランに、しっかりスポットを当てているのは、さすがスペインですな、良き見識、ありがとう。

と画家に関し、知った風なコメントをならべたけど、では「映画」としてどうか?と考えてみました。

勝手な憶測ですが、この映画の作り手は「単なる絵画紹介のドキュメンタリーにはしたくない」と考えたのではないでしょうか?というのは、合間に挿入される映像です。専門家のインタヴューは当然として、寂寞としたスペインの大地や、陰鬱に街を濡らす雨、空を舞う鳥たち、フラメンコのステージ・・・こうした絵画「以外」のショットを挿入することでプラド美術館をとりまく歴史、文化、空気までを表現したかったのでしょう。実に、映画的な発想であり、そのこと自体は間違ってはいない、と思います。

そうそう、特筆すべきは名優ジェレミー・アイアインズさんのナレーション。彼の存在感が、映画にめちゃ重みを加えているのです。

プラド03.jpg
ケレン味たっぷりの所作、重厚な語りクチは、日本でいえば丹波哲郎さん、仲代達也さん、北大路欣也さんのそれであり「恐れ入りましたあ」とひれ伏すしかありません。

しかし・・・そんな決意と工夫を、随所に感じさせながらも、肝心の絵画の「撮り方」に納得いかないワタクシとしては、本作品に低評価を下さざるをえません。

極端に絵画の細部に寄ったり、あちらを写したと思ったら、もうこちら、と慌ただしい切替えは興をそぐだけ。せっかちで落ち着かないってこと。だれか、1970年代の吉田喜重先生による美術ドキュメンタリー「美の美」のDVDを送ってやれよ、と言いたくなります。

くどいようですが、個々の絵の解説ではなく、歴史・文化をふくめた「総体」を観せたい、という高邁な企画なのは、よく分かるんです。しかし絵画を取り上げる以上、絵が主役であり、全体を「しっかり」俯瞰してから、「ゆっくりと」細部を見せるのは観客に対する礼儀、当然の手順と思います。

煽情的に「部分」を切り取り、刺激的・恣意的に見せる手法は、少なくともこうした名画に対しては間違っている、と思う。たとえばゴヤの「我が子をくらうサトゥルヌス」「マドリード、1808年5月3日」の、やたらな顔アップなど、そりゃ違うでしょ、と言いたくなります。

プラド06.jpg
ましてや「砂に埋もれる犬」は、犬をアップしてもしょうがなく、犬の頭上に広がる空間にこそ、底なしの絶望があるわけで、こんなふうに撮られたらゴヤも泣くぞ・・・もうなんだか分かりません。

プラド05.jpg
余計な風景ショットなど削って、しっかりゆっくり絵を見せてヨォ、と言いたいです。細かいショットを切りまわしたいなら、エイゼンシュタインの「戦艦ポチョムキン」をリメイクしたら?とツッコミたくなります(ちょっと方向性が違うか)。

最後になりますが、ワタクシが愛するボッスの「快楽の園」であります。私が中学生のときに買った画集ではタイトルが「悦楽の園」で、三つ子の魂的にそっちが好きなんだけど、快楽も悦楽も変わらんか。

プラド04a.jpg
個人的に思い入れが強い作品だけに、解説の薄っぺらさ(?)には苦笑しましたが、もう良しとしましょう(上から目線かよ)。

プラド04b.jpg
というわけで、本作については、意地悪な言い方になりますが、「絵画にそれほど興味がなく、プラド美術館が何かも知らないヒトには、もしかすると食いつけるかも?程度の映画」と申し上げておきましょう。

吉田喜重先生(監督というべきか)の「美の美」。再放送やってくれないかな~。再放送のさいはゴッホではなく、絶対に「ゴヤ」でお願いします!ほんと、お願い!!

nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:日記・雑感

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。