リディア・アヴイーロア著 「チェーホフとの恋」。回想録ですが、これって事実なの?と疑いたくなるドラマチックな面白さ。 [本]

札幌在住のAさんが、ワタクシに本を貸してくれました。めっぽう面白かった!それが

リディア・アヴイーロア著 「チェーホフとの恋」であります。

チェーホフとの恋01.jpg
私が、ロシアの作家チェーホフを好きだと知ったAさんが勧めてくれたのです。

著者リディア・アヴイーロアさん、お名前初耳でしたが、チェーホフと同時代の女流作家だそう。リディアさんは既婚者ですがチェーホフへ恋心を抱き、いっぽうチェーホフさんも彼女に対し、まんざらでもない・・・ような・・・と煮え切らずイライラさせるところが文学者のテクニックか?

出版元の未知谷さんのHPに、本書が紹介されています。端的にまとまっているので以下、HPより抜粋です。

<1889年の出会いから1899年の別離まで、10年間のプラトニックな愛憎劇。家庭人でもある女流作家が、手紙と回想で綴る濃密な恋。あまりの面白さゆえ単なる創作ではないかと評された時期もあるが、現在では44年の生涯で唯一真剣と言われるチェーホフのもう一つの真実を伝える作品と評価されている。>

さすがプロのライターは違う。的確に本書のツボを示しています。

そうなんですよ。「あまりの面白さゆえ単なる創作ではないか」という疑念は、読みながら私も感じました。プラトニックとはいえテーマは人妻と小説家の「あいびき」つまり不倫ですね。ところが本著には、昨今の芸能人不倫のゲス的ドロリ感は皆無であり、気持ちよいほどの純愛ストーリーなんです。周囲にいろんな出来事が目まぐるしく発生するので、小説的というか映画的というか。

たとえば著者(リディアさん)がチェーホフの真意を測りかね、やきもきしたり、すねたりする前半は、みごとに青春ドラマの体であります。話が進むと、行き違いばかりで二人がなかなか会えない状態が続き、やっと会えたとき、彼は病の床・・・こうした山あり谷あり展開は、韓流恋愛映画の常道ですもんね。さらに「ロミオとジュリエット」の神父さんよろしく、惹かれあう二人を応援する助っ人的キャラまで現れて、着実にドラマを盛り上げます。ハイライトは、チェーホフの戯曲の上演初日、観客席にいるリディアさんだけに分かるメッセージを、チェーホフがセリフに忍ばせるシーン。おいおい恋愛下手のふりして、なかなか粋じゃん、オジサン!文学を理解しあう者どうしが、文学を介し心を通わせる最高にドラマチックな場面です。ワタクシ、涙腺がゆるみウル~ッとしちゃいました。

語り手であるリディアさんの「脚色力」によるところも大きいですが、ほんと、これ映画化したい。良くできた恋愛ストーリーなのであります。

無駄に話が長くなってすいませんが、本著で、ワタクシが最も驚いたエピソードについて書きます。

チェーホフは1897年に大喀血して緊急入院します。それを知ったリディアさんが病院に駆け付けます。二人の悲しい再会シーンは感動的・・・ですけど、驚いたのはそのあと。リディアさんが病院を出て道を歩いていると、偶然にトルストイに出会うんですよ・・・えっ?トルストイ?「戦争と平和」の著者、ロシアの文豪ですか!?リディアさんが、チェーホフが入院したことをトルストイに教え、トルストイは翌日、律儀にチェーホフのお見舞いにいく・・・と、こうゆう流れです。

どうでもよい話に思えるかもしれないが、トルストイは1828年生れ、チェーホフは1860年生れですから、32歳もトルストイが年上。そんな二人が知り合いで、さらにトルストイはチェーホフ(の小説)を高く評価していた、と知ってビックリでした。だって作風がまるで違うんですから。ちなみにお二人が一緒に写った写真も残っていたんですね(下)。

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ただしワタクシが一番驚いたツボは、「リディアさんが道で、『偶然に』トルストイに会った」という事実そのもの。あの広大なロシアで、ですよ。あまりに話が出来すぎ、つうか。。。ま、「事実は小説より奇なり」という言い古された言葉もありますしね。ケチをつけてはいけません。

回想録にしては面白すぎる「チェーホフとの恋」、読み始めたら止まらず一気に読み切ってしまいました。Aさん、本を貸してくださってありがとうございました!

ところで(とまだ続くんかい)、ごくごく冷静に考えると、チェーホフというオッサンは困ったヤツだと思う。もしも彼がリディアさんに恋していたなら、言動は優柔不断な噴飯ものだし、逆にもしも彼がリディアさんに恋心がないとしたら、思わせぶりな言葉で女をたぶらかす食わせ者、と言えましょう。どっちにしてもアンタは悪いっ!

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