今週1週間で読んだ7冊のエッセーです。色川武大さんと吉村昭さんが良いなあ、と思ったのであります。 [本]

今週、読んだ本について書きます。

天邪鬼なワタクシは、話題の本、〇〇賞を獲った小説、ベストセラー等に興味がございません(お、自慢げだ!)。「世間が持ち上げる本」を読んでツボにはまったことが無い。だから読まない。単純明快な偏屈オヤヂであります。

さて、今週読んだ「小説」のハナシから始めます。短編ばかりです。近頃、何事にも根気が続かず、長編小説を読む気が起きないのです、情けなや、嗚呼。

まずは「ジキル博士とハイド氏」「宝島」で有名なスティーヴンソンさん(1850~1894)の短編集(岩波文庫)。収録7編のなかで「天の摂理とギター」なる作品が気に入りました。主人公は、イギリス版フーテンの寅さんというべき、芝居がかったお人好しで、お馬鹿だけど、なぜか出会うひとに幸せを与える。そんな彼と妻によるナンセンス話です。明るいハナシなのに、底流に悲哀味があるのが良かったです。

小説、もう一冊は、SFアンソロジー「きょうも上天気」(角川文庫)。こうゆう企画だとフィリップ・K・ディックさん作品は必ず入りますね。しかし、私は、20年ぶりに再読したロバート・シェクリイさんの「ひる」がツボにはまりました。漢字だと「蛭」です。好きなんですよね、こうゆう「ウルトラQ」っぽいSF。石坂浩二さんのナレーションが欲しい。宇宙から地球に落ちてきた小さな「ひる」状の物体。周囲の物質をエネルギーに変換しながら巨大化します。やがて直径100キロに広がり、なおも拡大を続けます。軍のミサイル、原子爆弾さえ「ひる」にとっては栄養源で、むしろ成長が加速。このままだと地球はまるごと「ひる」に呑みこまるぞ!どうする!?ってなもんです。この先はネタばれなので書くのは野暮ですね(まあ、予想通りのオチ、といえばそれまでですが)。

「小説」に気が乗らなかったワタクシ。埋め合わせに1日1冊のペースで計7冊の「エッセー」を読みました。エッセーに読後感も変ですが、勢いで書きましょう。

1冊目。ツボにはまりましたねえ。故 色川武大(いろかわたけひろ)さん著「うらおもて人生録」(新潮文庫)です。別名義(阿佐田哲也)で発表の「麻雀放浪記」シリーズのみを知るワタクシ。色川さんの純文学作品、エッセーともなじみがなかったのです。

で、このエッセーはステキです。内容は過激ですが、すーっと読み通すことができました。戦時中からドロップアウトし、バクチで生きてきた色川さん。その落ちこぼれ人生を振り返り、「劣等生へ贈る言葉」をつづったのがこの本。何が良いか、と言えば作家的虚栄心がないこと。無頼を気取ったり、エキセントリックぶったりしない。というか、色川さんの体験が十分刺激的だから虚飾など不要なんですね。

ワルぶらない色川さんは、モノゴトへの視線もニュートラル(公平)。「弱者の味方」ぶって、制度や世の中を熱く批判するヤツがいるでしょう。あれはどうも嘘くさい。売れないロックシンガーみたいでね。色川さんにはそんな嘘がないのです。たとえば「学歴について」の章、色川さんは、学歴が人間の価値を決めるものではないと認めつつ、「世間から学歴というパスポートは無くならない。人を雇う側からすれば、『保証』がほしいから。そりゃあそうだよ。」と、現実に対してクールなんです。

と思えば、「丁」「半」に金を賭ける古典サイコロバクチに勝つ方法や、そこから「賭け事のツボ」と論を展開するあたり、色川さんの面目躍如で、わくわくしました。正論かざしては怒ってみせるバカ作家と、一線を画す奥の深いご意見にじーんとした次第です。ありがとうございました!

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2冊目にいきましょう。

無頼つながり、ではありませんが、2か月前に69歳でお亡くなりになった白川道(しからわ とおる)さん著「俺ひとり ひと足早い遺書」(幻冬舎文庫)。ご自身の破綻的性格を臆することなく暴露して、それゆえ招いた不幸の数々、現在(執筆当時)の人生観を、遺書のごとくつづる、という赤裸々エッセーであります。

白川さんって、金使いの豪快さもさることながら、やることが、あまりにぶっ飛んでて、もはや「別世界の生き物」です。それゆえ、著者への共感は限りなくゼロで、「こんな人でも生きていける日本はスゴイ」と妙な感慨に浸ったのであります。自分を卑下しつつ、けっこう上から来る文章ですが、白川さんなら問題ございません。ま、エッセーというより自伝的小説というべきでしょう。

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3冊目はうってかわって常識人、そして努力のヒトのエッセー。名文の小説に、いつもホレボレする故吉村 昭さんの「街のはなし」です。ワタクシの求める「散文」の理想がここにある!文章ひとつひとつが彫琢され、無駄が無く、品を失わず、力強く、そして温かみに満ちた、この驚異の技はいったいなんでしょう。吉村さん、中野孝次さん、辻邦生さんの名文を読んだら、恥ずかしくて文章なんて書けないね(と言いつつ、平気でブログ書いてるけど)。

日々の出会いなどフツーのデキゴトをつづるだけで、吉村昭さんの人間性が、じわああ~とにじみ出してくる名エッセーです。吉村さん好きのワタクシとしては、これぞ必読の書!であります。

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4冊目です。「鴨川ホルモー」「「プリンセス・トヨトミ」「偉大なるしゅららぼん」など変化球系の小説を書かれる万城目学(まきめ まなぶ)さんのエッセイ「ザ・万歩計」(文春文庫)です。話は逸れますが、万城目さんと聞くと、俳優の濱田岳さんを連想します、そりゃあ無理ないですね。ホルモーーしゅららぼんーーっすから。

さて、万城目さんが本作を書かれたご年齢は30代前半。執筆依頼した編集部の意向もあるでしょうけど、本作は、その年齢の作家にありがちな、まさに「定型エッセー」です。面白く読ませようと、ハナシを盛って、ちゃらけた感じで展開する、アレです。ちょっとドジでダメな自分(の昔話など)を小出しして、自虐を交えるスタイル。書評で「軽妙」なんて評されますな。一昔前は、原田宗典さんのエッセーがその代表格でした。

残念ながら、50代半ばの偏屈オヤヂ(=ワタクシ)には、面白くもなく(じゃあ読むなよ、というハナシだけどね)、批判気分が頭をもたげてしまう。著者が「昔クラスにいた頭のいいやつ」をネタに、「頭の良いヤツは違うなあ~」みたいな記述に出会うと、「そりゃアンタ、皮肉かね?」と感じちゃう。

ただし、万城目さんVSゴキブリの死闘ネタは、「Gが大嫌い!」の本心本音が炸裂しており、その箇所だけは腹の底から本物の、出色のできばえであります。その話だけでも、購入価値のある一冊といえませう。あ、誉めてないね。

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5冊目です。体質に合わない作家に続けて挑戦する私も、どうかしていますね。群ようこさん「ぢぞうはみんな知っている」(新潮文庫)であります。

正直、ぜんぜんダメです。脳がまったく受け付けません(それでも全文、読みました)。群さんは悪くないし、この手の「怒りへの共感誘導型」エッセーは女性にウケるんだろうなあ、と推察しつつも、「不愉快なことを、不愉快なままに書く」、そのノリ、その品性が苦手です。群さんは、文章のプロですから、断片的なおっさん愚痴レベルではなく、筋のとおったストーリー展開にしているわけですが、逆にいえば「愚痴レベルを、強引に作文に仕立てた」みたいで、うへええ、と思ってしまう。世の女性たちは、こうゆうエッセーを読んで「スッキリする」とか「面白がる」のでしょうかね。

本1冊の返却処理をミスった「くらい」で、群さんに、ボロカスに書かれた図書館職員さんに、むしろ同情しちゃいます。誇張はあるでしょうが、相手を土下座させそうな勢いですよ。読んでて背筋がザワ~ッとしました。いやだなあ、この感じ。群さんのエッセーは、今後、二度と読まないから問題ないですけどね、はい。

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6冊目です。愚痴エッセーの流れではないですが、愚痴どころか全編「恨み節」に彩られている驚異の作品です。フランスの思想家ジャン・ジャック・ルソーさん著「孤独な散歩者の夢想」(岩波文庫)であります。

名著(迷著)です。「自分は良い人間なのに、世間が私にどんなヒドイ仕打ちをしたか」「こんな孤独な境遇に置かれねばならないのか」と、理不尽への憤りをねちっこくぶつける、ニーチェ的にいえば、人間的なあまりに人間的なエッセーであります。内容真偽はともかく、そのしつこさに「偏執狂」「被害妄想」という言葉が思い浮かぶほど。

ただし、私が「これだあ!」とはまったツボは、本の論旨そのものではありません。ときおり登場する「名言」なんであります。ポストイットを貼りつけておきたい「良い事」をおっしゃるんですね。さすがはルソー様。いわく、

・ 老人が勉強することが、もしもあるとすれば、それは「死ぬこと」だけだ。

・ 自由とは、欲することをできる、ことではなく、欲しないことをしない、ことだ。

だんだん禅問答となっていくのが、テツガクつうもんですかね。嗚呼。

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最後、7冊目です。懐かしいなあ。村上春樹さん(文)と、昨年、お亡くなりになった安西水丸さん(画)による「ランゲルハンス島の午後」です。題名からしてスゴイですよね、ランゲルハンス島ですよ!これ、ヨーロッパの絶景島ではなく、所在地は人間の膵臓(すいぞう)です。この題名が許されるなら、「ヌクレオジドリン酸の朝」「モホロビチッチ不連続面の夕焼け」「ブッフホルツ継電器の日の出」とか、いろんなヴァリエーションが出来そうです。

本の中身ですが、まさに村上春樹さんのお書きになるエッセー。自然体でありながら、旅や音楽、芸術への造詣の深さが垣間見える。しかし決して、押しつけがましくないフワリとした感じ。ほら、言いたいこと分かるでしょう。時代や流行に左右されない自由人の視線、カッコイイですね~。同じようなことを、田中康夫さんが書いたら「ゲエッ」と思うのに、村上春樹さんが書くと違和感や抵抗感がない。なんなんでしょうね。なんとなく滝川クリステル、なんのこっちゃ。

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以上、とりとめなくかつ脈絡なく、今週読んだエッセー本7冊を書き切ったところで今日はお終いっ。チャオウ。


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