本年最高の感動的なコンサート ミスターSの振るブルックナー交響曲9番。 [クラシック音楽]

10月20日、東京オペラシティでのクラシックコンサートについて書きます。ずばり結論を申しますと、今年、最も感動したコンサートでした。

私も音楽ファンのハシクレ、コンサートもそれなり回数通ってますが、今回は別格に感動しましたねえ。聴きながら終始ブルブル震えました。ブルックナー交響曲9番は、開始4分でボーボー泣いちゃう始末(曲調がメロディアスに変わる「あの箇所」)、終演時は目が真っ赤ですよ~どうしてくれる。

本年ベストワンだけでなく、過去10年を振り返っても、これほど感動したオーケストラコンサートは記憶にありません。映画「パリ・テキサス」を観たときと同様で、内容の素晴らしさだけでなく、大仰に聞こえるかもしれませんが、破格の表現を”人間が成しえた”という「可能性」に感動です。演奏後も涙が止まりません。てのひらが切れそうなほど拍手した経験、これまでなかったなあ・・・ああ、いてて。

「これを聴かずに死ぬるか!」という音楽、まさにコレですねえ。もし子供の頃に、この実演を聴いたら、身の程知らずと罵倒されようと音楽の道を目指しちゃったかも。そう、人生を変える魅力とパワーに満ちたステージだったんです。

優越感アリアリ(いやだねえ)で言わせていただくと、当公演に来れなかったクラシック音楽ファンの方は、痛恨の大失敗をした、と申し上げたい。

興奮して先走りしました。スイマセン。公演内容であります。

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指揮者は御歳88歳、ミスターSことスタニスラフ・スクロバチェフスキさんです。今年5月のベルリン・フィル定期演奏会も凄かった「らしい」ですね。(実際聴いていないので、よく分かりませんが)。

指揮者のお名前も長いけど、オーケストラ名も長い。ザールブリュッケン・カイザースラウテルン・ドイツ放送フィルハーモニー管弦楽団・・・まるで落語の「じゅげむ」です。二つのオーケストラの合併とはいえ、昔の名前を並べなくてもなあ・・・。

10月20日のコンサートの演目は、前半がシューマン交響曲4番、後半がブルックナー交響曲9番であります。私はブルックナー・ファンではありませんが、交響曲9番「だけ」は別で、マーラー交響曲2番「復活」、シューベルト交響曲8番「グレイト」と並んで、究極最高の音楽と惚れ込んでいる次第。

シューマンも名演でしたが断腸の思いで割愛、今日はブルックナー交響曲9番の演奏について書きますね。

スタニスラフ・スクロバチェフスキさん=ミスターS、お元気とはいえ88歳です、体を斜めに少々怪しい足取りで指揮台に立ちます。静寂と緊張のあと彼の指揮棒がゆっくり動き、交響曲9番の第一楽章が始まります。

ブルックナー特有の「静かな入り」は奇をてらわず控えめ。しっかりした歩みのなか、次第に盛り上がりながら(9番では早めに訪れる)弦と管の強奏が鳴り響きます。開始早々ですが、その音、その音楽の「綿密さ」「彫琢の深さ」「コク」は尋常ではなく俄然圧倒されてしまいました。「うわぁ、すげえっ」て、声が出そうになりましたね。

続いて9番を象徴する、あの主題、うっとりメロディへと展開します。ここがまた仰天する素晴らしさです(同曲の開始後4分の箇所)。

誤解を恐れずにいえば、思いっきりロマンチックなんですもん!

いいのかよ、ブルックナーだぜ、と知ったかぶりファンは批判するかもしれませんが、おかまいなしに歌う&歌う&歌う・・・こんな手を使われたら脳内ビリビリ、涙ボロボロになるのも無理ないでしょ。

ブルックナー演奏の多くが、楽曲を「宗教的高みへの希求」みたいに捉え、「禁欲的」に解釈していますが私は大間違いだと思っています。それだと大伽藍のような音楽絵巻は作れても、リアルな血肉が無い、無機物のごとき音楽ができあがりますよね(それがブルックナー信者を作り、反面、ブルックナー嫌いを作ってきた功罪です)。

ところが、ミスターSのブルックナーにはしっかり人間の血が通っています。喜び、悲しみ、絶望、そして希望が刻まれています。それでいて決して安っぽくならないことが見事なんです。怖いくらいオーケストラには恣意的にフレージング変化させたり、強調するラインや、強弱・抑揚も「S流」に味付けているんですよ。彼はたぶん超人的な曲全体の直観的把握力(?)を持っているのでしょう。揺るがぬ全体像があるから、細部の「味付け」にあざとさやケレン味が感じられない、いや、むしろ、これこそブルックナーのあるべき姿では?と思わせる説得力、吸引力というか、魔力・・・ああ、なんとステキな芸術家でせう。

どの短いフレーズでも流しゼロのギンギン充実度。細部を完璧にしなければ、全体の完璧はない!と言わんばかりです。たとえば巨大タペストリーの名品が、細部までぎゅうぎゅう完璧に織りなされているがごとく、すべての箇所が法悦にあふれています。何度もくどいですが、それでいて押しつけがましさや理屈っぽさがなく、ある意味「聴きやすい」・・・とんでもない化け物演奏ですよ。

幸せな時間は早く過ぎるもの。長大な作品ながら演奏が3楽章(終楽章)まで到達したときは、「ああ、曲が終わってほしくない、このまま聴き続けていたい・・・」と望みましたね。珍しい感覚です。会場に鳴り響いているのは音楽を超えた、楽曲の「魂」そのもの・・・言い方が漠然すぎますが、そうとしか言いようがありません。

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最後の一音が消えいった後の、会場を揺るがす大拍手も当然でしたね。観客の多くがスタンディングオベーションです。何度もステージに呼び戻されるミスターS。オーケストラがステージから撤収した後も、ほとんどの観客は延々と拍手し続けるので、無人のステージに、指揮者はさらに数回、呼び出されます。この拍手、社交辞令ではなく観客の率直な「感動」の発露でしょう。

海外は知りませんが、日本では、終演後の拍手はオーケストラ撤収とともに急激にしぼみ、一部の熱心なマニアをのぞけば、観客はゾロゾロと帰途につくのがフツウです。しかし今回は違いました。大多数が会場に居残って延々と拍手ですから。ミスターSが、いかに観客を魅了したかが分かろうというものです。

オーケストラのテクニック(技巧)、メカニック(精度)でみれば、今回より素晴らしい演奏会はいくらでもありましょう。ただし、今回ほど「音楽を聴く喜び」を感じさせてくれるステージは、どのくらいあるものでしょうか。

ミスターS、長い名前のオケの皆様、素晴らしい音楽をどうもありがとうございました!心底、感動しました!


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