3連休の2日目。シフさんの弾くシューベルトを、じっくり聴き込んだのであります。 [クラシック音楽]

2019年7月14日(日)。

3連休の2日目です。関東南部は終日雨で、高校野球の千葉県予選は早々に試合中止が決定しました。チバテレビの野球中継がなくなったので、本日はオーディオ部屋にこもって音楽三昧を決め込んだワタクシです。

朝から晩まで音楽を聴ける、となれば、待ってましたとばかりに棚から出すのはこのCDであります。

ハンガリー生まれのピアニスト、アンドラーシュ・シフさん(1953年~)が弾く、シューベルトのピアノ・ソナタ全集(CD9枚組)であります。

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1988年~1992年に、シフさんが30代で録音した音源です。収録曲はD960までのピアノ・ソナタに加え、即興曲(Inpromptus)D899とD935、楽興の時(Moments musicaux)D780、さらには舞曲(計18曲)まで網羅するテンコ盛りの内容。CD9枚のうち、7枚が70分超の長尺で、ゼンブ聴きとおすのに12時間ほど費やしました・・・ぷはあ。

ここまで徹底しているのに、名曲「さすらい人幻想曲」が収録されていなのはなぜか?ワタクシにはサッパリわからんのです。ま、そこには大人の事情があったのでしょう・・・ね、DECCAさん?

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前置きは良いとして、ずばり、シフさんの演奏は素晴らしい!(語彙貧困で失礼)

現在は分からんですが、当時(1980年代~90年代)のシフさんへの評価は判で押したように「端正」「知的」「バランスが良い」といった類で、言い方を変えれば、上手いけど没個性の優等生、みたいな否定的ニュアンスがありましたっけね。こうしたマイナス評価は、30代にして大手レーベルDECCAと契約し、モーツアルトやシューベルトの全集をバンバンとリリースしちゃうシフさんの才能へのヤッカミが大きいのでしょうが(クラシック音楽ファンを自称する輩の偏狭ですわな)、思うに、シフさんのお顔が柔和すぎるのも一因か・・・と。

ほら、どうみても、性格温和な好青年という風貌であり、エキセントリックな演奏など思いもよらないよ・・・と。

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世間迎合タイプのワタクシ、恥ずかしながら、シフさん=微温的演奏つうドグマにとらわれ、目が(耳が)曇っておりました。深~く反省であります。

今回、CD9枚を通しで聴いた限り、シフさんの弾くシューベルトは、そんな簡単に評価を下せるものじゃなかったわけです。

モダンピアノの特質を活かした振れ幅の大きい表現。とくに弱音の繊細さは、ピリオド楽器では不可能な(楽器特性により)表現でありブルッと震えちゃいます。そして、どの一音一音も明晰で、昨今流行りの「ぬくもり」とは対極の、どちらかといえば金属的なカッキーン、という響きであり(録音にも因るでしょうけど)、すんごいスッキリしちゃうんですね。

昨今、シューベルトの晩年のソナタD959(20番)とD960(21番)が人気でして、感情どっぷり、の演奏が意外に多いのです。D959の第2楽章など、聴いているうちに死にたくなるようなダークネスが漂ったりしますが、ま、その方向性を否定はしませんけど、シフさんのように感情に耽溺せず、ある意味クールに弾きこなすのもアリですよ。つうか、感情移入し過ぎないほうが、むしろシューベルトの音楽の美しさ、喜び、哀しさを味わえるってもんです。

ハナシが長くなりますが、CD9枚の中で、もっとも感動した楽曲について、です。CD3、トラック6~9の、

ピアノソナタ、ニ長調、D850(17番)であります。

この曲、長いうえに、とりとめなく、シューベルトのピアノソナタの中では低評価の極みでしょう。しかしワタクシ、今回、シフさんの演奏で、うわあ、こりゃ素晴らしい!と開眼しましたね。第2楽章の、うつろう機微・・・なんたる世界観であるか!酒も呑んでないのに、脳内ドーパミンで興奮、酔っぱらってしまった次第。

そしてCD9枚目。全集最後を飾る楽曲は、即興曲D935(4曲)。あまりにポピュラーなこの曲集も、お約束どおりに流すのではなく、温和な(お顔の)シフさんも、やるときはやるぜ!的に、エモーショナル強い打鍵で、心にズンと音が響いてきます。目がウロコ、の即興曲なんであります。

以上、シフさんの、シューベルト演奏を満喫した至福の12時間、CD9枚組でございました。

さてこうなると、シフさんが現在、新録音(再録)に挑んでいるフォルテピアノを使ったシューベルトのソナタ集も買わねばなるまい!とココロに誓うワタクシ(現時点で2組、4枚がリリース済み)。そして本丸は、11月の来日公演ですね。ベートーヴェンのピアノ協奏曲(全曲)の弾き振り、ということで、チケットを買わないわけにいきません。おお、ハナシがどんどん発展するわあ。

まさに温故知新。素晴らしい宝は、自宅CD棚にひっそりと埋もれているんだねえ、という結論でございました。チャオー。

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nimke

話題がシューベルトのピアノソナタに行き着くなら、ワタシもひとこと。
シューベルトは、ベートーベンが確立した音楽の構築以後、もっとも傑出した音楽家でしょう。ショパンとか、ブルックナーとかありますけれど、ともかく、その作曲の多くは死後に評価されるほど、短い命だったわけですが、
今日、振り返って鑑賞すれば、いずれも深い美しさに溢れていますし、演奏の仕方により、多彩な魅力がいくらでも生み出される、っとゆうことから、グレングールド的な、ニュアンスに富んだ演奏が期待され、それこそが、今日の平均律ピアノではなく、フォルテピアノが再現されるべき意味なのだと、心底から思うしだいです。

by nimke (2019-07-15 23:48) 

門前トラビス

nimke様、コメントありがとうございます。
シューベルトといえば一昔前は、歌曲と「未完成交響曲」のヒトというアバウトかつ一面的なくくりで語られがちでしたが(とくに学校教育では)、いまや交響曲はもちろん、ピアノ曲、室内楽曲、声楽曲、ほぼすべての作品が高く評価されて面目躍如、録音や実演も着実に増えて、ファンとしては嬉しい限りです。
ピアノ曲ですと、ワタクシがふだん聴くディスクはパウル・パドゥラ=スコダ御大のフォルテピアノによる全集ですね。今年92歳ですが10月に来日が予定され、もちろんシューベルトをご披露されるとのことで楽しみです。楽器はたぶんモダンのベーゼンドルファーですが、スコダさんはもともとピリオド楽器一辺倒ではなく場面や曲で楽器を使い分けている方なので違和感なし!でありましょう。
ちなみにピリオド楽器問題については、ご指摘のとおり使用楽器の選択という問題と、調律の問題(平均律で生じるウルフの解決)がありますが、私の立場はアーノンクール先生のお言葉どおり、モダンかピリオドかは「場合によりけり」と感じてます(以下、10年前の記事です)。
https://monzen-t.blog.so-net.ne.jp/2009-05-24
で、シューベルト作品はどうか、というと、楽器や調律よりは、演奏者の楽曲解釈やセンスに依存するところが大きいように感じてます。まあ、これも、正解はなく、どう思うかは聴く人それぞれってことですね。
コメント、改めてありがとうございました。
by 門前トラビス (2019-07-20 11:02) 

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