デヤン・ラツィックさん編曲、ピアノによる、ブラームスのピアノ協奏曲第3番。 [クラシック音楽]

先般、クラシック音楽仲間のAさんとお会いしたときに、AさんがCDを持参してくださった物件がこれであります。

ザクレブ(旧ユーゴ?)生まれのデヤン・ラツィックさんの弾く「ブラームス ピアノ協奏曲第3番」。

ラツィックさんは77年のお生まれ。ピアニストで、クラリネット奏者(!)で、作曲家で、そのどれもが一流つう分かりやす~い天才音楽家なんですね。ピアニスト&作曲家として世界的な活躍をされ、来日も何度かされております。

デヤンラティックCD2.jpg

さて、Aさんからいただいたこのディスク。

ブラームスの残したピアノ協奏曲は2曲しかないのに「第3番」とはどういうこと?そう、この曲のオリジナルはブラームスの「ヴァイオリン協奏曲」なんです。ラツィックさんが、それをピアノ協奏曲にアレンジ(トランスクリプションというべきか)したヴァージョンなんです。これを「第3番」と呼ぶのは問題とも思いますが、まあ、そこは良しとしましょう。(以前、ラフマニノフの「ピアノ協奏曲第5番」なんて、とんでもないディスクもあったしねえ)

編曲版=「キワモノ」のレッテルを貼るクラシックファンもおられましょう。でも、ベートーヴェンだって自ら作曲したヴァイオリン協奏曲を、ピアノ協奏曲に編曲しています(ほとんど演奏されませんがね・・・)。ムソルグスキーの「展覧会の絵」はオリジナルのピアノ曲より、ラヴェル編曲のオーケストラ版が有名なくらいです。

ブラームスの楽曲だと「ピアノ四重奏曲第1番」は、シェーンベルクによるオーケストラ編曲版が有名です(素晴らしい出来ですよね!)。最近、弦楽六重奏曲2番の弦楽合奏版のCDも出ましたねえ・・・ようするに、アレンジしたヴァージョンだからって、なんでもかんでもダメではない、ってこと。

食わず嫌いの方に、結論を言っちゃいますと、ラツィックさんの編曲&ピアノによる「ブラームス ピアノ協奏曲第3番」は、驚くほどに見事な完成度でした。アッパレです。ヴァイオリンとピアノでは音の出し方が根本的に異なります。それゆえ聴くほうは、ヴァイオリンの音色や雰囲気を、どうピアノに置き換えるの?というテクニカル興味が先にたっちゃうわけです。

第一楽章の開始から数分間は、ヴァイオリンの朗々たる連続音と、ピアノの打鍵音(不連続音)が頭のなかで比較されちゃうので、たしかに居心地の悪さはありました。しかし、ラツィックさんのアレンジが見事なので、しだいに曲にのめりこんだワタクシ、第2、第3楽章に至っては、もともとピアノ協奏曲として作曲されたのでは?と感じるほどツボにはまりましたね。原曲にはない良さも随所に感じますし感動的であります。

この力作に比べると、前述のベートーヴェンによる自作編曲(ヴァイオリン協奏曲→ピアノ協奏曲)のアレンジはイマイチだなあ、とさえ思えちゃいますもん。

ラツィックさんのアレンジの妙は、ソロ・ヴァイオリン・パートを、単純にピアノに移し替えるのではなく、両者の特性をふまえて「音楽を作り直している」ところです。ヴァイオリンの音色と旋律美の「イメージ」を残しながら、ピアノのシンフォニックな響きを生かしています。そして、どの瞬間でも「ブラームスらしさを失っていない」ことがグッ・ジョブなんであります。卓越した音楽センスを感じますね。完成までの努力はものすごかったと思います。(解説によると構想から初演まで5年かかったとのこと)

しつこいようですがCD売上アップを狙った粗雑な企画ではありません。ブラームス楽曲への愛が21世紀のいま、こんなステキなアレンジ・ヴァージョンを生み出したのであります。ラツィックさんのピアノ演奏も「さすが!」と思わせる高水準でありますし、天才、恐るべし。。。

強いて難を挙げれば、サポートをつとめるアトランタ交響楽団の演奏でしょうか。ハツモノを意識したか、かなり堅実で穏便・・・言い方を変えれば「ありきたり」な演奏なのがプチ残念といえましょう。世界初演ステージを収録した、世界初録音のディスクゆえ、指揮者もオーケストラも下手な冒険ができなかったんでしょうか。

いずれにしても、本作の認知がどんどん進んで、シェーンベルクによるオーケストラ編曲(原曲 ピアノ四重奏曲1番)のようにコンサートで積極的に取り上げられるようになると良いなあ。

ピアニストとしてのラティックさんに興味津々で、次回の日本公演にはぜひ行ってみたい。

ユリア・フィッシャーさん(ヴァイオリニストでありピアニスト)がコンサートの前半と後半で演奏する楽器を変えていましたが、ラツィックさんも一晩のコンサートで、前半はクラリネット奏者としてモーツアルト「クラリネット協奏曲」を吹き、後半はピアニストとして「ピアノ協奏曲23番」を弾く・・・そんな隠し芸大会的な企画はどうでしょうか?アンコールでは作曲面をアピールするため、自作を演奏、そりゃあ、ちょっとやりすぎですか。ふふふのふ。


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