上岡敏之さん指揮 東京フィルのシューベルトを聴いて衝撃を受けたハナシ。 [クラシック音楽]

2011年7月21日(木)、東京オペラシティコンサートホールで上岡敏之さんの指揮によるシューベルト交響曲7番「未完成」、交響曲8番「グレート」という濃~いプログラムのクラシック演奏会に行ってきました。オーケストラは東京フィルであります。

上岡さん2.jpg

上岡さんは1960年生まれ、ドイツを本拠地に活躍される国際派です。日本人指揮者としては珍しく(?)常に音楽性が絶賛されるというスゴイ方(らしい)。辛口評論家の宇野功芳さんが破格の高評価をされた影響もあるのかな?今回はじめて上岡さんの実演に接した私ですが「高すぎる期待は往々にして裏切られる」ことを身にしみておりますので、期待は半分程度のプチ警戒モードで会場に向かったわけです。

さて、7月21日のコンサートの感想であります。これから私はひじょうに複雑なコメントをすることになります。

正直なところ、上岡さんのシューベルトは全く納得できません

ド素人の思い入れ(偏見?)で恐縮ですが堂々・悠然と演奏して欲しいのです。バルトーク、ストラヴィンスキー、ショスタコヴィッチ、マーラーなら、テンポや強弱をいじくっても良いでしょう。しかしシューベルトの、名曲の誉れ高い7番、8番は、キザな言い方ですが「音楽そのものが語る」べきであり、味付けはごくごく控えめにしてほしいのですよ。

シューベルトやブラームスの曲を、手に汗にぎってスリリングには聴きたくない、ということ。予定調和的と言われようと落ち付いた音楽を味わいたいのです。極論「君が代」をパンクテイストでやられたらイラッとくるようなもので・・・ちょっと違うか。

何を言いたいかというと、上岡さんのシューベルトは、実に、なんというかなあ、音楽作りが一種独特なんですね。もちろん、楽譜どおりに演奏はしているのでしょうけどね。これほどエキセントリック?なシューベルト、初めて聴きました。

強弱の付け方、急加速、急減速のメリハリがすごいわけです。思い入れたっぷりの「熱さ」は音楽に身をゆだねるどころか、緊張感をもってステージを凝視せざるをえないくらいです。事実「グレート」の第一楽章の前半、アッチェレランド、リタルダンドの応酬にオケのアンサンブルが壊れそうになったほど、ガンガンに楽器を「弾かせ」るんですね。

上岡さんの指揮っぷりがこれまた凄まじい。バーンスタインの再来?というほど振ります、振ります。ただ、やたらにではなく、タクトは流麗にさばかれ、ここぞ!の決めは素人(の私)にさえ分かりやすく棒を動かすのでヴィジュアル的には爽快ではありますね。

音楽作りにハナシを戻しますが、面白い瞬間はほんとにワンサカありました。しかし、なんといっても強烈なのが8番「グレート」の最終楽章、最後のフレーズです。ジャーーーン!!と勇壮に終わって大拍手・・・という流れのはずが上岡さんは最後のフレーズ直前で、それまで鳴っていた大音量を急激に絞るんですね。

あざといくらいの、スビト・ピアノ!そして、ピアニッシモで「消え入るように」この曲を終えたのです。チャイコフスキーの「悲愴」や、マーラーの「大地のうた」のように。

あまりの変化球に場内は呆然、拍手どころか、しーーーん、と静まり返り・・・・しばらく続いた静寂のあと、上岡さんが客席に体を向けたとたん、大拍手が巻き起こりました。これは「やられたあ!」と思いましたね。

私はさきほど「上岡さんのシューベルトには全く納得ができない」と書きましたが、演奏に対する率直な感想は、真逆に聞こえるかもしれませんが、

完全にノックアウトであります!感動しました、泣きました!

くどいですが、演奏スタイルは(シューベルトに限っては)嫌いですし、同じ演奏は聴きたくもありませんが、私ごときの好き嫌いを超越した一期一会の名演奏なのは、間違いありません。

音楽が、上岡さんそのものになっている爽快感!楽譜をなぞった音ではなく、魂からわき出た音がそこにあります。その圧倒的な訴求力を前に、好き嫌いなど小さいハナシじゃん、ってことです。

この説得力はなんなんだ!音楽家のパッションと勇気が、無条件に聴き手の心を打つってことでしょうかね。

上岡さん.jpg

オケの頑張りについても書かねばなりません。しっかり指揮者と意志疎通し、大熱演で応えた東京フィルさんは大健闘で、素晴らしいの一言に尽きます。これぞプロフェッショナルだ!

てなわけで、今回のコンサート、年に1回あるかないかの貴重な体験でした。嫌いな演奏スタイルにもかかわらず、めちゃ感動したんですからねえ、こんな驚き体験があるから、コンサート通いはやめられません。

素人の勢いで語りますが、上岡さんの指揮ってホント気持良いですね。クラシック音楽の指揮で「先振り」(指揮者がタクトを動かしてから、一テンポ遅れてオケが音をだす)がありますが、いっこく堂の腹話術のように指揮者の動きとオケの音がズレてるように感じるわけです。上岡さんのタクトは、動かすとほぼ同時に音を出させており(「合わせ」の拍ではタクトを大きくふりかぶる)、これなら素人(の私)もスッキリできるんですよ。自宅でCDの音楽に合わせて指揮(のまね)をしている自分に近いからですな・・・ちょっと違う?

まあ、とにかく、すごい日本人指揮者がいるものですね。上岡さんはドイツのオケの音楽監督なので、日本での指揮は多くないですが、最近は、在京オケにも客演指揮されているようです。是非、行かねばなりませんな。上岡さん指揮で、モーツアルトの「レクイエム」聴いてみたい!ベートーヴェンでも良いなあ、マーラーも聴きたいなあ・・・要するに、曲にはこだわりませんので「上岡流」をぜひ再体験してみたいってことです。ふふふのふ。

<蛇足>

コンサート後、頭がシューベルト交響曲8番(一昔前は「9番」)モードになっちゃったので、自宅のCD棚から、15種類の同曲CDを引っ張り出し(下写真)、順次、聴きなおしました。

シューベルト8番CD.jpg

上岡さんのような演奏はなく、「堂々・悠然たる雰囲気」が多いのですが、意外にもメンゲルベルグ指揮ロイヤルコンセルトヘボウの40年録音(モノラル)が、ライブということもあり、いい感じにメリハリあって痛快でしたね。これは新発見。

一方、アーノンクール指揮の全集CD(1992年)は、当時は、すんごい新しいスタイル(ひとことでいえば「軽いシューベルト」)と驚いたものですが、今聴くとそれほどでもなく、古典的演奏と言って良いレベル・・・うーん、クラシック演奏も進歩?しているんですねえ・・・って、そこに感心かよ。ちゃんちゃん。


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門前トラビス

To e-g-g様、niceありがとうございました!
by 門前トラビス (2011-07-30 15:52) 

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