山梨県立美術館で「ヴラマンク展」を拝見して、ぶっとんでしまった日。 [絵画]

もうすぐ終了となる展覧会ネタで恐縮ですが、山梨県立美術館(甲府市)で、

ヴラマンク展 (会期:2017年9月2日~10月22日)

を拝見した件について書きます。

千葉県市川市の自宅から一般道→首都高→中央道と愛車ムーヴを走らせ約3時間。初訪問の山梨県立美術館は、広い敷地に建つビックリするくらい立派なミュージアムなのでした。

さて、もしアナタが少しでもヴラマンク(1907年~1958年)の絵画に心が動くなら、今回の展覧会には絶対行ってほしい。山梨まで旅費がかかろうと、宿泊費がかかろうと、これほど素晴らしいヴラマンク作品が、どーんと一堂に会する機会は今後30年は無いと思います。いや、ほんと。このチャンスを逃してはいけません。

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今回のヴラマンク展の個人的感激ツボは、ワタクシが偏愛する「雪の村の風景」を描いた作品がどっさり揃っていること。うおおお~と雄たけびをあげそうです。鉛色の空、雪に覆われた道、脇に立つ古い家々・・・そんな寒々しい景色を、迷いのない筆致と、大胆な白黒メリハリで描いた名作群ですね。

実はワタクシ、会場に着くまでは、その画題の作品は、せいぜい3枚でしょ?どうせセザンヌ傾倒期や、フォーヴィスム期の絵ばっかりなんでしょ?と冷ややかだったのです。

しかし!

冬の村景色は、油彩だけで、なんと24枚も揃っていたのですよ!

画面から発散される強烈オーラの前に、恐れ入りました、好きにしてください!とワタクシのココロが叫んだのであります。

ところで、世の中には(とエラソーに言わせてもらいますが)、画集で観れば十分、と感じる作品があります。私にとって、クールベ、ゴッホ、ルノワール、モネ、ルーベンス、シャガールの作品がそれに当たります。本物をみても「あ、こんな感じね・・・」という薄い感想しか出ません。スーラやシニャックに至っては、本物をみて、「うは、点が細かいわ」と作業努力をチェックする体です。

そんな「画集で観ればOK」の画家と正反対に、ぜったいに実物を観るべきだ!と確信できる画家もいるのです。実物の絵でしか感じえない感動を与えてくれるアーチストたちです。私にとって、その筆頭がヴラマンクさんなのであります。

その意を強くした出来事は、こうです。山梨のヴラマンク展での感動を、帰宅後にトレースすべく、ワタクシ、ミュージアムショップで展示作品の目録画集を買ったのです。さて、自宅に帰り、目録を開き、数時間前に実物を目の当たりにした作品を、写真印刷で観た時、うええ~とマイナス感動して、ガックリしちゃったのです。

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それはなぜか?実物と画集では絵の寸法が異なるのは許容するとしても、ヴラマンクさんの実物油彩画の「色の深み」が印刷でまったく表現されていないからです。

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たとえば上記の風景画。ふたつの建物の間に黒い影がありますが、印刷だとベターっと抑揚のない平坦な感じになっています。

ところが美術館で拝見した本物では、この影部分は、単なる黒でなく、濃い緑など複数色が配合されていることが分かります。そこに微妙に光がまじりあい、絵を見ていると吸い込まれそうな、ものすごい深さをたたえた影になってるんです。

レンガの門、積もった雪、家の屋根もしかり。勢いよく描きなぐっただけに思えても、その絶妙な質感が組み合わされ、全体として、輝く様な「絵の深さ」が生まれてるんです。

こればっかりは、どんなに写真印刷技術が向上しても、再現は不可能(と思う)。実物を観ないと体験ができません。だから、美術館へ足を運ばねばなりませんぞっ!と、強引かつ独善的アピールをしちゃうわけです。

ここで朗報です。

ヴラマンク展は、10月22日に山梨県立美術館での開催を終えたあと、別都市へと巡回するんです。ひろしま美術館(広島県)で11月3日~12月24日、そのあと、北九州市立美術館分館(福岡県)で来年(2018年)1月4日~2月25日と二都市で開催されます。しつこく言いますが、今回のチャンスを逃すと、この規模のヴラマンク作品展は今後30年間、国内で出会えないと思いますよ~。

ヴラマンク02.jpg
最後にヴラマンクさんが死の1年前(1957年)に発表した「遺言」と題する文章の、最後の3センテンスを転記します。彼の墓碑銘にも刻まれている文言だそう。美術館で、数々のヴラマンク作品を観たあとに、この言葉は心にしみます。


私は、決して何も求めてこなかった。


人生が、私にすべてのものを与えてくれた。


私は、私ができることをやってきたし、私が見たものを描いてきた。


モーリス・ド・ヴラマンク

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nimke

はじめまして。
ブラマンクを検索してたどりつきました。
「村の雪の道」にかんする深い愛着の記事、当方も全く同感です。
私は5年位前に、たまたま立ち寄った北海道立美術館において、はじめてブラマンクの絵に衝撃を受け、鎌ヶ谷在住なので、関東でブラマンクの絵を鑑賞できないか、探していたところ、埼玉県のサトエ21美術館の常設展示に「村の雪の道」がいつでも拝観でける、ってことがわかり、喜んで会員となり、何十回も、その絵を見に通いました。
何度も拝観しているうちに気が付いたことは、「雪の道」に描かれている極微細な「雪や氷の模様」が超細密描画で見事に描き込まれていて、肉眼で近寄ってもなかなかわからず、拡大鏡でようやく詳細が浮かび上がってくる、っとゆう発見なのでした。
「雪の道」の作品はこのたびの回顧展でいくつも拝見しましたけれど、サトエ21の絵の描写法まですごいレベルではなかったようです。これは晩年の一定時期に特有な描画法なのかもしれません。
さて、貴兄のブログには感心しております。
こまごまと再現されているマメマメしさにです。
趣味の範囲が広範にわたることは当方も同様なのですが、それをいちいちマメにアップされる根性。
特に、酒好きでしばしば深酒を繰り広げられる、っとゆう点、当方も同様ながら、その都度マメにアップされる根性には脱帽しかありません。
日本酒のことで、千葉県の蔵元で全国トップレベルの素晴らしい酒質を長年安定的に醸造している稲花をご紹介します。金澤酵母が主体で、その「キレ」と「コク」は天下無双っといえるでしょう。サンプルはいつでも御提供できます。
ちなみに当方は酒販業とは無関係です。
by nimke (2019-06-28 14:06) 

門前トラビス

To nimke様、コメントありがとうございます。
ご紹介いただいた埼玉県のサトエ21世紀美術館をネットチェックいたしました。ヴラマンクを鑑賞するには絶好の環境と建築のようで、これは行ってみねば!と気合が入りました。
日本酒の情報もありがとうございます。地元千葉県の地酒ですと、近所で手に入りやすい甲子(きのえね)と不動に偏ってしまい、たまに腰古井を入手して嬉しくなっている程度です。美味い千葉の地酒探索にまで至っておりませんが、教えていただいた稲花はゲットしようと画策しております。
ありがとうございました!
by 門前トラビス (2019-07-07 11:10) 

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