稀代の名チェリスト、アンナ―・ビルスマさんが85歳で逝去されました。 [クラシック音楽]

2019年7月。

クラシック音楽の演奏家で、押しも押されもせぬ大御所の訃報がはいってきました。

1934年生れ、オランダ出身のチェリスト、アンナ―・ビルスマさん(Anner Bylsma)が、7月25日にお亡くなりになったとのこと。享年85歳。

バッハ作品をはじめとする18世紀以前の音楽を、当時の楽器(ピリオド楽器)を用い、当時のノン・ヴィブラート奏法で演奏する、いわゆる「古楽器演奏」を、アーノンクールさん、レオンハルトさん、ブリュッヘンさん、ホグウッドさん(いずれも故人)らと牽引してきた、その道の第一人者であります。

こうした原点回帰運動が「正しいか・正しくないか」は別として(というか、それを論じ始めると話が終わらなくなる)、ひとつ間違いなく言えることは、ビルスマさんの弾くチェロには、常に

魂がこもり、音楽の喜び、ひいては生きる喜びを与えてくれた

ということであります。それは、楽器がピリオドかモダン(現代)か、とか、使っている弦がスチール(金属)かガット(羊腸)か、といった物理的差異では断じてなく、ビルスマさんの、広い見識と熱いスピリッツが音楽に、活き活きとした生命を吹き込んでいた、ってことです。

たとえば、チェロ音楽の頂点ともいうべきバッハ「無伴奏チェロ組曲(全6曲)は、私が苦手とする楽曲ですが、ビルスマさんの1995年録音だけは例外的に大好きなのです。(ちなみに、この録音で、ビルスマさんは、モダン仕様のチェロに、ガット弦を張るというフレキシブルな対応をされています。その効果は聴けば分かります)。

柔らかく寄り添うような音色、気持ちのこもったメロディの歌わせ方、細かい節まわし・・・どれをとっても深い。深すぎます!

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おっと、話が先走ってしまいました。ビルスマさんのご逝去を知り、ワタクシ、自宅CD棚から最初に出したのは、95年発売の「アンナ―・ビルスマの世界」というディスクです。

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その時点(1995年)で、30枚近いディスコグラフィーを誇っていたビルスマさん。「アンナ―・ビルスマの世界」はそれらの録音から、美味しいどこ取りした入門用CD(当時1,000円)です。バッハはもちろん、ボッケリーニ、モーツアルト、ベートーヴェン、ライヒャ、シューベルト、メンデルスゾーン、ブラームス・・・と時代も様式も違う作品を自在に弾きこなす、ビルスマさんのレパートリーの広さに改めて感嘆しきり、です。

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あらためて自宅CD棚を眺めると、自分でも驚くほど、たくさんのビルスマさんの録音を買っていたんだなあ、と気づいた次第。どうせ誰も質問してくれないので、勝手に自分から、好みのCDを紹介しちゃいましょう。

1992年録音のボッケリーニ(1743~1805)のチェロ協奏曲集です。ボッケリーニを高評価していたビルスマさんだけあって、演奏に作曲家への愛が満ちており、終始一貫攻めまくっている、という印象。その熱さがたまらんのです。

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次は、ビルスマさんのチェロが主役ではございませんが、じわわーっと染み出る「味」がたまらない、モーツアルト(1756~1791)の超名曲「クラリネット五重奏曲」、ヴァイオリン・ソナタを編曲した「クラリネット四重奏曲」、そして「ケーゲルシュタット・トリオ」を収録した1枚です(1992年録音)。名手ナイデックさんのクラリネットも素晴らしいけど、ビルスマさん率いるサポートのラルキブデッリが良いシゴトをしており、うっとりと音楽に身を委ねる、てえのは、こーゆー演奏を聴いたときに使う言葉じゃ、と申し上げたい。

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話はまた大バッハ(1685~1750)に戻ります。ビルスマさんの演奏解釈(使用楽器の選定センス)が光った、J.S.バッハヴィオラ・ダ・ガンバとチェンバロのためのソナタ集」。ずばり、ビルスマさんならではの名演ですなあ。全体暗めの「無伴奏チェロ組曲」より、カラッとしているこちらのほうがワタクシは好きです。

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最後の一枚。シューベルト(1797~1828)の大曲「弦楽五重奏曲 D956」であります。ピリオド楽器ならでは、のストレートな音が力強く響く一方で、弱音部の細かなニュアンスはお見事!の一言に尽きます。

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すっかり長くなってしまいました。名録音を数多く残し、ワタクシに音楽の楽しみを教えてくれた名匠、アンナ―・ビルスマさんに深く感謝するとともに、ご冥福をお祈り申し上げます。ありがとうございました!


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Cecilia

学生時代アンナー・ビルスマさんの演奏(バッハ)をエアチェックし聴いていました。女性だと思っていて、男性と知ったのは割と最近のことです。

ところで門前トラビスさんのクラシックネタは弦楽器演奏が多いようですね。
by Cecilia (2021-02-16 19:58) 

門前トラビス

To Cecilia様、コメントありがとうございます。
ワタクシとしては、アンナ―・ビルスマ御大といえば、ちびまる子のおじいさん、というイメージでしたね。顔の輪郭が、ソックリ・・・。
ワタクシの好みですが、楽器そのものの音色としてはクラリネットが一番好きです。ただ主役としての楽曲は、弦楽器や鍵盤に比べると絶対数が少ないので、ブログに取り上げているのは弦楽器系が多いかもしれませんです。とくに、歳をとってからは室内楽曲メインで聴いているので、その傾向が加速しておりますです。
by 門前トラビス (2021-02-20 15:05) 

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