荒俣宏さん著「パラノイア創造史」を再読して、”狂気と創造”の世界に感動です。 [本]

文筆家、評論家の荒俣宏さん著作が大好きなんです。荒俣さんの本は16冊保有していました。TVのバラエティ番組やCMにも登場されてますが、この方、卓越した論理構築、分析力と博覧強記の知識量で、科学、医学、文学、博物学、錬金術、絵画、歴史、オカルト、サブカルチャー(漫画、エロス、グロテスク)まで広範なフィールドの著作を誇るルネッサンス的「超人」なのです。

どの著作にも感嘆しちゃいますね。荒俣さんのスゴさは、どんなに難解なテーマも「分かりやすく」、ドキドキするくらい「面白く」語ってくださることです。

教科書には出てこない、文化/科学/人間の「裏事情」(ある意味、真実)を闊達に描いてくださいます。そこからあふれ出るのは、澁澤龍彦さん、種村季弘さん、紀田順一郎さんらの系譜を受け継ぐ「マニアックへの興味と愛」です。

荒俣さんの膨大な著作のうち、私が読んだのは一部に過ぎませんが、個人的に強力にお勧めしたいのは「パラノイア創造史」いう一冊です。先日、15年ぶりに再読し、改めて感動しているのであります。

para1.jpg本著は80年代前半に、ポーラ文化研究所刊行の季刊誌『is』に連載にた文章に加筆したもの。いやあ、懐かしいな~。私は学生時代、この季刊誌で、荒俣宏さんのお名前を知り、すっかりはまったクチですから、思い出深いです。

「パラノイア創造史」という題名からどんな内容を想像されますか?

全編に共通のテーマは狂気創造性の相関関係です。ただし、精神医学書ではありませんから、小難しい分析ではなく、興味深いエピソードを紹介しながら、「判断」は読者にゆだねられます。たとえば・・・

17世紀、悪魔と契約を交わした画家が描いた「悪魔の肖像画」の謎。

2相交流モーターを発明した天才学者二コラ・テスラの晩年の妄想的アイデアとは?

シャーロック・ホームズの生みの親、コナン・ドイルの一族が取りつかれた妖精幻想とは?

精神分析医フロイトの”患者”で、後年「フロイト論」を発表する、通称、狼男は、ほんとうに精神的問題をかかえていたのか?

そして、最も私が食いついたのは、11章「新文字を発明した人々」です

明治~大正の精神医学界の一人者、呉秀三博士は、精神病(狂気)と筆記能力に関係を見いだそうと、多くの症例(精神異常者の書いた文字)を集めます。書態と障害程度を関連付ける試みでしたが、博士は異常な(ある意味、正常な)「例外」を発見するのです。

精神障害者のごく少数に突出した「創造性」・・・いや、「芸術性」すら見られるという、驚くべき事実。もしも狂気が「精神を病んだ状態」であり、脳機能が低下しているなら、このようなユニークな創造性がなぜ生まれるのか?その意味とは何か?

「パラノイア創造史」に掲載されている島田文五郎なる被害妄想者の「創造文字」を、以下に転記します。

彼は「自分は日本人ではなくドイツ人」と言い張り、東京ニコライ堂で暴れて強制入院。被害妄想は肥大して、ついには当時のドイツ宰相ビスマルクに帰国嘆願書を書くのです。問題は、その嘆願書に使われた「文字」なのです。

なんと、表から横に読むと「ドイツ語」で、裏から縦に読むと「日本語」になると(本人が主張する)、翻訳不要の新文字なのです。その発想からしてぶっ飛んでますが、ゲンブツを観ると唸ってしまいます。

まず、文面を、表から横読みした場合はこれ。

para2.jpg

同じ文面を、画像ソフトの反転機能を使い、裏から縦読みした場合は以下です。

para3.jpg

たしかに、前者は西洋の筆記体文字に見え、後者は日本の筆文字に見えますね。どうですか、この「新文字」にみなぎる流麗さ、誤解を恐れずにいえば「芸術性」は?これは、なんとしたことか!?

どうやら我々は狂気とは何か?という根本命題に立ち返る必要があるようですね。

価値や実用性は別として、新規なるもの=「発明」には狂気が必要なのかもしれません。正常=現状にとどまる限りは進歩は無い・・・”全く新たなもの”を生む原動力は、パラノイア(偏執狂的)な執念と夢想、すなわち「狂気」・・・ということなのでしょうか。今後も、考えていきたいテーマです。

興味のある方、ぜひ「パラノイア創造史」をご一読ください。ベタな心理本より絶対に面白いですよ!


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